大ヒット漫画『ハチミツとクローバー』『3月のライオン』の著者である、漫画家・羽海野チカさん。めったにメディアに登場しない超人気作家の知られざる姿に、プロインタビュアー・吉田豪が迫る!

画像1: 漫画家・羽海野チカ『3月のライオン』制作秘話を語る

――映画『3月のライオン』、おもしろかったですよ!

羽海野 よかった! ありがとうございます。映画化はホントにうれしいです、大友(啓史監督)さんにお任せしてよかった……。

――キャストがほぼジャストな感じでしたね。

羽海野 プロデューサーさんは『ハチミツとクローバー』のアニメのときからずっと一緒なので、いままでの積み重ねできっと私が言ったことを覚えていてくださって映画に活かしてくれたんだなって思って。

――自分の考えた物語を客観的に観る機会って、あまりないと思うんですけど。

羽海野 そうです、それがメディアミックスの一番楽しいところで。自分で漫画で描いてるとわからないんですけど、アニメとか映画になるとみんなが観てた『ライオン』がわかるので、それがすごい楽しい。私、撮影にはあんまりお邪魔しちゃ悪いな……と思って、でも初詣のシーンは外でのロケなので見に行ったんですけど、ちっちゃい山ひとつが丸ごと神社になってて、そこで初詣客と撮影してる人と全部で何百人も、ひとつの山に『ライオン』やってる人がいっぱい集まってて、たいへんだ! と思って。エキストラの方も何百人、撮ってる方も何百人で、あれはとてもビックリしました。家で描いてると猫と原稿しかないので。

――自分の作品に人がこんなに関わってるんだっていう。

羽海野 これは大ごとなんだと思って。

――大ごとですよ!

羽海野 山ひとつ『ライオン』の人だ! と思って。道にも誘導の人とかがいて。タクシーで近づいていくときに「なんで交通規制してるんだ?」って思ったんですけど、「あ、自分の映画だ!」「私のせいだ! すみません」って。それぐらい大ごと感でした。

――映画だとギャグ要素が入るとリズムが崩れるからなのか、かなりシリアスになるんだなとも思いました。ほのぼの要素というか、ネコ要素、子供要素がだいぶ減って。

羽海野 そうですね。あと大友監督は男の人を撮るのがすごくうまいので、そっちに寄せたのかなって。あと、ギャグって実写でやるとなかなか難しいから、これはいい判断だと思いました。無理してやって、みんながちょっとドキドキなっちゃったら、そこで正気に戻っちゃうから。
 

画像2: 漫画家・羽海野チカ『3月のライオン』制作秘話を語る

 
――じつに羽海野先生らしい映画だなと思いました。羽海野先生って、いまは『3月のライオン』でかなり実像が伝わってきたわけですけど、『ハチクロ』の頃はかなり誤解が多かったと思うんですよ。

羽海野 誤解? あ!! リア充を描いているようなことですよね。

――そうです、リア充のお洒落な恋愛漫画、みたいな。

羽海野 『ハチクロ』のときはそれがしんどかったですね。「オシャレ臭がするから読まない」とか「こんな幸せそうな漫画は読まない!」って、読む前に手をつけないって決められちゃってたのがしんどかったので、次の漫画からはお洒落要素は外そうと思って。

――あ! そういうことだったんですか!

羽海野 そうなんです。だから、『ライオン』ではみんなスキのある服装を選んで、棋士の人たちはシャツをインしてベルトして。女の子たちにもスーパーで売ってる感じの、あとユニクロを組み合わせると作れる格好にしたり。そしたら、いまはお洒落漫画って言われなくなった気がするんでうれしいです。

――前よりも作品で登場人物が悩んでいる描写が増えましたもんね。

羽海野 でも、今度は「暗い漫画」って言われる(笑)。「こんな鬱漫画は読まない」「受けつけない」って言われて、ですよねー、中庸は難しいなーって。

――ダハハハハ! そこの誤解は解けたけども(笑)。実像に近いのは『ライオン』ですからね。『ハチクロ』も後半で主人公がウジウジ悩み始める感じぐらいから、だんだん羽海野先生要素が増してくるとは思ってたんですけど。

羽海野 でも、掲載誌が最初は『CUTiE Comic』だったから、お洒落にしなきゃって。次も『ヤングユー』で、読者層を考えると……。

――最初はお洒落要素が必要で、次は恋愛要素が必要になって。

羽海野 恋愛とかお洒落とか片思いとかにしなきゃなって思ってたんですけど、最後『コーラス』に移ったあたりから、もういいかと思って(笑)。

――ダハハハハ! つまり単なる媒体の問題だったんですね(笑)。

羽海野 お客さんに向けて描いてるので、最初は「CUTiE Comic」で、専門学校生・大学生・高校生に向けてたから、あんまり怖いこと描いてもなと思って。次、『ヤングユー』でOLさんや主婦の方向けになって、『コーラス』はもっと読者層が広かったので。あと、もう掲載紙に関係なく読んでくれるお客さんがいた頃だったから。

――ある程度、実像を出してもいいんだなってことになって。

羽海野 『ライオン』では青年誌に移ったから、男の人が読む雑誌だから女の人は夢のある感じに描かないといけないって思って、夢いっぱいの(川本)あかりお姉ちゃんとかを描いたんですけど……。

――なるほど。男はだいたい悩んでたいへんそうだけど。

羽海野 男の子は優しく迎え入れてくれる人がいるとまた頑張れるっていう、時代劇の『居眠り磐音』シリーズみたいな感じで。それ資料で読めって言われて。男の子は、優しいんだけどすごい剣が強くて、もともとはいいお家の子だったんだけどお家騒動があって、ひとりで出自を隠して孤独に長屋に住んでて、みたいな設定が男は大好きだって言われて。それで長屋の人がピンチになったら刀を抜いてあっという間にやっつけて、でも優しい顔で戻ってくる、みたいなのが好き!! って言われて。「わかりました」って言って生まれたのがこちらです。

――そういうことだったんですか! 基本、サービス精神の人ですよね。

羽海野 私にとって「漫画」って「他人に好きになって欲しくて」やってることなので、好いてもらえなかったらこの作画の苦労に何も残らないんですよ。だから、なるだけ要望は聞きたいんだけど、聞きすぎてとっ散らかっちゃってもまた作品としての責任があるので、塩梅をつけながらです。

――苦労が報われないのはキツすぎますもんね。

羽海野 これで「読まない」とか言われたら……。「おもしろかった」って言ってもらわなかったらなんの意味もない存在ですからね、漫画は。

――ただつらいだけ(笑)。

羽海野 そう。こんなに寝ないで描いて無意味って……。「おもしろかった」って言われたらつらいのも治るんですけど。

――でも、商業誌に行って2作連続でちゃんと大ヒットして、メディアミックスで映画やアニメにもなって、すごい報われてるじゃないですか。

羽海野 報われました。でも基本、家で机の前で「あああ……来週号どうしよう」って言ってるのは変わらないので、あんまり自分ではっきりとはわからないんですよ。

――状況が変わってきている実感はない。

羽海野 そうなんです。だから、山ひとつ分全員『ライオン』だったのを見たときに、「何か起きている」って初めて思ったんですけど、お家に帰るとまた来週号どうしようってなるから。
 

※フラウ2017年4月号より一部抜粋
 

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PROFILE

羽海野チカ Chica Umino
8月30日東京都足立区生まれ。2000年『ハチミツとクローバー』でデビュー。2007年より「ヤングアニマル」(白泉社)にて『3月のライオン』を連載開始。2011年に第4回マンガ大賞2011、第35回講談社漫画賞一般部門を受賞。2014年、第18回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。


©Chica Umino/HAKUSENSHA Interview& Text: Go Yoshida

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