東京・朝の南青山某所。「昨日の夜、海外から戻ってきたばかりなんです」そう言いながら、スタッフと楽しそうに談笑し始めた小松さん。寝癖をつけたまま、眠そうに目をこすりながらエレベーターを降りてきた菅田さん。そして、顔をあわせるなり「久しぶり」と微笑みあった二人。

撮影の合間、軽口をたたき合い、笑っていたかと思えば、カメラの前に立った瞬間〝役者〞の顔に。シャッターの音と共に、近づいては離れ、見つめあう……。揺れ動き、すれ違い、惹かれ合う、作品から抜け出したかのように〝恋心〞を見事に表現してくれた。

そんな二人が全身全霊を注ぎ挑んだ映画『溺れるナイフ』。作品を語る中で見えてきたそれぞれの恋愛のカタチや思春期。溺れるようなあの時、あの一瞬の記憶――。

 

ファンが待ち望んだ
“神キャスティング”

画像: ファンが待ち望んだ “神キャスティング”

小松 以前、ネットで自分の名前を検索したとき〝夏芽〞というキーワードが一緒にあがってきて。「なんだろう?」と調べた結果、辿りついたのが『溺れるナイフ』の主人公〝夏芽〞だったんです。そこで初めて私は原作の存在を知ったんですよ。

 
――『別冊フレンド』で約10年にわたり連載され、そのコミックの販売部数は累計170万部を突破。少女に限らず大人の女性まで夢中にさせた少女コミック『溺れるナイフ』。大人気作品だけに、実写化を望むファンが、ネット上で「夏芽を演じるなら?」「コウを演じるなら?」と、白熱のキャスト予想を展開。そこで常に名前が挙がっていたのが、小松菜奈と菅田将暉だった。故に今作は〝神キャスティング〞と評され、「会う人、会う人から〝楽しみにしている〞と声を掛けられた」と語る二人。

小松 まだまだ公開が先の段階から、こんなにも声を掛けられたのは初めての経験で……。嬉しい反面、不安な気持ちにも。「本当に私で大丈夫なのかな」って。

菅田 いわゆる少女コミック原作、そのラブストーリーの相手役を演じるっていうのが、実は僕にとっては初めての経験で。原作を読む前は「〝壁ドン〞とかするのかな、それとも〝床ドン〞か〝顎クイ〞か」なんて思っていたんですけど……待っていたのは〝○○○〞(見てのお楽しみ)だったっていう(笑)。想像していたのとは全く違う世界が今作には描かれていたんですよ。

 

危うく強烈な10代の
“一瞬” を切り取った恋

――突然、東京から田舎町に引っ越すことになり、ティーン誌の人気モデルとして活躍していた夏芽
の生活は一変。途方にくれる彼女が〝神様の住む入江〞で出会ったのが、宵闇の中で発光するように
輝く少年コウだった……。お互いに惹かれ合いながらも、ぶつかり合い、傷つけ合う。危ういほどに
剥き出しで強烈な二人の恋が描かれている『溺れるナイフ』。

小松 認められたい、視界に入りたい、この恋に自分の全てを注ぎたい……。好きな人が自分の中心に居座り、〝神様〞のような存在になる、夏芽とコウの恋は少し怖くもあるけど羨ましくも思いました。大人になればなるほど、人はみんな臆病になるし、余計なことを考えてしまったり、素直に恋ができなくなる。二人の恋はきっと、10代の〝あのとき〞〝あの一瞬〞にしかできない恋だと思うから。

菅田 それ、わかるな。一見、二人の恋は特別に映るけど、実は特別じゃないというか。根底にあるのは「相手のことが好き」といういたって普通の感情なんですよね。その表現方法が違うだけで。好きな相手が〝神様〞になる、その感覚も理解できる。特に、二人の住むのは昔からの信仰が根強く残る小さな田舎町で、なんでもあり、いろんな人がいて、新しい出会いや可能性に満ちた東京とは全く違う場所。だからこそ、二人の目にはお互いがより強烈な存在に映ったんじゃないかなって。

小松 ちなみに、そんな〝神様〞のような女性に出会ったことは?

菅田 出会っていたら……まず、ここにはいないだろうね。今、その人のそばにいると思う。東京にも出てきていないだろうし、芸能界にも入っていない、FRaUに載ることもなかったと思う(笑)。〝神様〞に出会うって、そういうことでしょ、きっと。

 

全身全霊を作品に注ぐ、
過酷を極めた撮影現場

画像: 【菅田さん】ベルベットシャツ¥48000、タンクトップ¥7800/セブンバイセブン(セブンバイセブン) コーデュロイパンツ¥27000/ネオンサイン(ネオンサイン) サスペンダー¥9900/ドーバー ストリート マーケット ギンザ(ゴーシャ ラブチンスキー) 【小松さん】トラックフレアパンツ¥38000/ジョン ローレンス サリバン(ジョン ローレンス サリバン) エンブロイダリーシャツ/スタイリスト私物

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―― 原作の舞台にもなっている和歌山県の熊野で行われた今作の撮影。許された撮影日数は17日間のみ。タイトスケジュールのなか、荒ぶる海に飛び込み、険しい山道を駆け巡り、真正面から役と向き合う……過酷を極めた現場。「今、ここにいるのが不思議なくらい」「あのまま海の藻屑になっていてもおかしくない」笑いながらも半分本気でそう語っていた二人。メガホンを握ったのは新進気鋭の山戸結希監督。「良い意味でパワフルかつストイック」と二人が声をそろえる彼女の現場は常に真剣勝負。故に現場に張り詰めた空気が流れることもあったそう。

菅田 でも、それも作品への情熱があるからこそ。ある場面で監督が泣きながら〝私はこういう絵が撮りたいんだ〞と気持ちをぶつけてきてくれたことがあって。その時、僕は〝この監督についていこう〞と腹を決めた。

 
―― 作品の持つ世界観と同様に、皆が全身全霊を注ぎ、ヒリヒリと焼け付くような〝かけがえのない一瞬〞をフィルムに収めた。

菅田 そんな現場の癒やしになったのが、クラスメイトの大友を演じる重岡大毅ですよ。心を閉ざした夏芽の光となる大友同様に、シゲが現れるとパッと現場が明るくなる。また、僕らだけでなく、何百人ものエキストラさん達までをも爆笑の渦に巻き込む、そこが彼の凄いところで。

小松 カナを演じた上白石萌音ちゃんにも癒やされたよね。

菅田 僕は地方ロケにはいつもギターを持っていくんです。共演した人から教えてもらった曲をその土地で練習して東京に帰るっていうのをいつもやっていて。それが気分の良い切り替えになっているんです。今回も現場でそれをやっていると、隣で萌音ちゃんが歌ってくれたりして。で、その横ではたいてい、小松さんが泣き疲れて寝てるっていう(笑)。

小松 歌う余裕、なかった(涙)。

菅田 いや本当、小松さんは役柄はもちろん監督ともガチンコで向き合い頑張っていた。それこそ、毎日、涙を流すくらいにね。

 

思春期の揺らぎはきっと
誰もが経験する通過儀礼

画像: 【菅田さん】レザーベスト¥55200(ゴーシャ ラブチンスキー)、Tシャツ¥23500(ウェールズ ボナー)/ドーバー ストリート マーケット ギンザ その他/スタイリスト私物 【小松さん】メンズのMA-1¥54000/ネオンサイン(ネオンサイン) ニット¥54000/アクネストゥディオズ アオヤマ(アクネ ストゥディオズ)

【菅田さん】レザーベスト¥55200(ゴーシャ ラブチンスキー)、Tシャツ¥23500(ウェールズ ボナー)/ドーバー ストリート マーケット ギンザ その他/スタイリスト私物 
【小松さん】メンズのMA-1¥54000/ネオンサイン(ネオンサイン) ニット¥54000/アクネストゥディオズ アオヤマ(アクネ ストゥディオズ)

――未熟さゆえに自分を全能と信じ、お互いを特別な存在として認め合っていたコウと夏芽。しかし、ある事件をきっかけに、それは大きく覆される。恋愛にとどまらず、挫折、焦燥感、破裂しそうな自意識、めまぐるしい思春期の感情を痛々しいほどに描き出している、それもまた今作の魅力のひとつ。

そして「それはきっと、形は違えど誰もが経験するもの。だからこそ、多くの人がこの作品に惹かれるんだと思う」と、声をそろえた二人。

菅田 劇中に「暇つぶしじゃあ」というコウの台詞があるんですけど、当たり前のように、学校に行って帰って来る道のりが、或る日突然、退屈に感じる……思春期の頃、僕自身、そんな感覚に陥ることがあって。だからこそ「つまらない毎日を面白くしたい」衝動にかられて、実はこの世界に飛び込み上京したんです。

その衝動は今も自分の中にある。だからこそ、仕事もプライベートも常に「面白い」ことを探して楽しんでいるというか。今もやりたいことは数え切れないほどありますから。

小松 モデルから女優へという経緯から、私と夏芽を重ねてくれる人も多いと思うんですけど、実は私と夏芽は真逆で。私は東京ではなく山梨の田舎に住んでいたんです。そして、高校を卒業するまで上京しなかったのは「変わりたくない」「変わるのが怖い」と思う自分がいたから。

映画『渇き。』で女優デビューしたときも、自分の名前が一人歩きしていくそんな怖さを感じる瞬間もあって……。それでも、続けたのは「認められたい」気持ちがどこかにあったからなんだと思う。「負けたくない」「認められたい」って、それが私の背中を押してもくれたんです。

菅田 その気持ちは今回も感じたかも。小松さんは「本番で疲れ果てるんじゃないか」ってくらい、リハーサルから全力。で、たまに本当に疲れちゃうっていう(笑)。

 
小松 菅田さんは他のどの作品でも常に輝いてて、コウちゃんに決まったとき「ぴったりだな」と思ったんですよ。そして、現場でもずっとコウちゃんだった。それだけに、彼のような挫折を味わったことがあるのか、聞きたくて。

菅田 あるよ、めちゃくちゃあるよ。それこそ、10代でデビューしたときは何も考えてなかったから。その後、思うようにはいかない現実に何度もぶち当たったりして……。自分の無力さを痛感したことも、他人を羨ましいと思ったことも、悩みに悩んだ時期もあるし、それこそ、友達の胸を借りて泣いたことだってある。でも、その苦い経験が今の自分にもつながっているんですよ。

そこで、何を失い、何を手に入れたのか? 一言で言うと「何も持っていないこと」を知ったんじゃないかな。そこから、本当の意味でスタート地点に立てたというか。今だって「ああしておけばよかった」の連続。でも、だからこそ〝明日〞があるんじゃないかなって、自分は思うわけですよ。今日も思ったばかりだからね。「とんこつラーメンじゃなく醤油にしておけばよかった……明日は醤油ラーメンにしよう」って(笑)。

 
●情報は、FRaU2016年 11月号発売時点のものです。 
撮影/東海林広太 ヘア&メイクアップ/AZUMA(菅田将暉) メイクアップ/UDA(小松菜奈) ヘア/NORI TAKABAYASHI(ang le/小松菜奈) スタイリング/猪塚慶太

 
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