「’90年代にウォン・カーウァイ監督映画と、彼の作品世界で生きる男性たちにハマった人たち。別れても好きな人を忘れられない男たちにセクシーさを感じてしまったあなた。その出会いこそ、まさに運命だったのです」(映画ライター よしひろまさみちさん) 

 

PROFILE

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映画ライター 
よしひろまさみちさん
1972年生まれ。本誌でもおなじみの映画ライター・編集者。雑誌やウェブで連載多数。日本テレビ系『スッキリ!!』で月一映画紹介するなど幅広く活躍。 

 

たとえウジウジ男でも
美しければすべてよし!

「ウォン・カーウァイ監督作品で初めて観たのは『恋する惑星』。もう、ガーン!ときましたよ。言葉と文化の壁が厚すぎるフランス映画にハマりきらなかった私にはドンピシャ。ヌーベルバーグを格好いいという風潮はあったけど、観てもよくわからないという人が割と多かったところに、ウォン・カーウァイが流星のように現れた。アジア人が演じているというのもあったし、キャラクターが等身大だったんだよね。ウォン・カーウァイ作品に恋をして、恋する惑星で回っちゃってたんですよ、私たち。監督の手のひらで回されてたってだけだけど。 

 ほとんどが、いわゆる中国返還前の香港だったり、’60年代のさらに混乱期の中で翻弄される男や女の関係を描いてるんだけど、今振り返ると何のこっちゃいって話ばっかりじゃない? ただただ痴話喧嘩が続いたり、浮気したりみたいな。でも、ウォン・カーウァイが描く恋愛ものに必ず出てくるのは、別れと忘却なの。忘却しきれない人たちが主人公だからおもしろいんだよね。基本、サバサバしてなくて、粘着質でしょ。ウジウジする前に運命の人が現れちゃうのが韓流なわけだけど、ウォン・カーウァイの場合はフランスの影響をすごく受けてるから、当然のことながら山もなければオチもない。台詞数が異常に少ないし、映像はひたすら美しくて、おしゃれ。結局、上にしか伸びない高層ビルのある香港で暮らす、シティボーイ、シティガールたちの、アーバンな話だったんだよね。

 単純に、ひたすら格好いい男の子たちしか出てこないじゃない。トニー・レオンも、男っぽいんだけど内面はウジっとしてる役が多くて。『恋する惑星』の頃は、特にギラギラしていて、野心丸出しみたいなところも素敵だった。映像を見ているだけでセクシーで、濡れちゃうみたいなね。『花様年華』もただの不倫話で、そんなに引っ張らずにさっさとヤっちゃえばって思うんだけど、“不倫は文化です”以前の『失楽園』時代の話だから、後ろめたさが先走ってしまう。そんないくじのない男性がかっこよく見えるのは、女性キャラとの絡みによって、男性が輝くという作りになってるからというのもあるんだよね。いわゆる香港女優たちが演じる女性はギャーギャーうるさくて、静かなキャラがほぼ出てこない。そのなかで際立つのが、寡黙な男の格好よさなの。素敵〜! 恋だの仕事だのに悩む女性は大騒ぎするんだけど、男性は黙って悩んだよね。それがエロいでしょ。そこがウォン・カーウァイ映画の男女のバランスのよさだよね。

トニー・レオン
「昔ながらの中国人体型というか、スタイルがいいわけではないのに、男の色香があるのよねぇ~。香港顔がいいし、広東語もいいのよね。『恋する惑星』や『ブエノスアイレス』で若き日のトニーの白ブリーフ姿に萌えた人たちは、『花様年華』や『2046』で、まだ脂がのっている彼を見て、“枯れてもいい!”と思ったはず」


 私の偏愛作品の話すると、『ブエノスアイレス』になっちゃうんだけど、いいかしら。だって、あそこに出てくるレスリー・チャントニー・レオンチャン・チェンの3人は、絵に描いたような華流のイケメンじゃない? ここに金城君も出てきたら完璧なのに!みたいな。映画自体は、こんな男とさっさと別れなよって思う内容だけど、当時はレスリーとトニーの役が逆転した方が適役だと言われていたんだよね。トニーが演じたどちらかというと受け身のファイという役を、完全に受け身のレスリーがやっちゃっていたら、生々しすぎて観ていられなかったと思う。トニーがDV男ウィンを演じていたらと想像すると、本当に怖そうだし。ウォン・カーウァイがそれを意図していたのかはわからないけれど、うまいなと思った。ヤサ男のレスリーが大暴れしているということに、意義があったよね。ファイは、“香港に帰りたいけど、あいつを置いて行くわけにはいかない”という悩みがずっと続くじゃない。移民でもないのに、旅先に居座り続けて、お金がないから働き始めるんだけど、それも仕事がないとウォンを養えないからなのよね。そこらへんは、“男気あるじゃん”って思うじゃない。角刈りが伸びたような坊主で、コーデュロイのコート着て、超絶ダサいのに、もう好きになっちゃう。

レスリー・チャン
「カミングアウトする前から、ファンの間ではセクシュアリティについて不問だった。監督の内なる美を体現している人だと思う。『欲望の翼』でも『ブエノスアイレス』でも、ヌメッと艶かしくて、でもちょっとでも握ったらパリンと割れてしまいそうな刹那的な繊細さでファンを魅了してました」

 

チャン・チェン
「いわゆる台湾出身の華流のイケメン。『ブエノスアイレス』や『グランド・マスター』にも出演しているチャン・チェンは、割とトニー・レオンとメンタリティが似てるんだろうなと思います。あまり、物事を深く考えていなくて、来た仕事をこなしますよ、という職人気質。でもそのほうが俳優としては上手くいくんだよね」

 

金城武
「『恋する惑星』や『天使の涙』で、ナヨっとした青年役がハマっていた台湾から出てきたばかりの金城君。私はその頃、香港バマりしていて、香港人の顔がタイプだったから、彼にはあまり興味なかったんですよね。日本はトレンディドラマ全盛期だったし、清純できらきらした格好よさに懐疑心を持っているほうだったから」

 
 ウォン・カーウァイ作品って、結局、10代の童貞の子みたいな気分を引きずってる男たちしか出てこないのよね。だって、みんな自分が大好きなんだもん。だから、ふられたり別れたりすると下向くじゃん。自意識高すぎなのよ。でも、美しい男たちにそれをやられちゃうと、“悩んでる男って素敵”となる。最近はEXILE系に代表される男らしい男が良しとされるようになってきたけど、それまでの少女漫画に出てくる男性像って割とウジウジしてたんだよね。わかりやすく健康的でかっこいい男性にセクシーさを感じない女の子が求めていたのは、どこか影のある男だった。そんなメンタリティを持った女性たちが、‘90年代にウォン・カーウァイにハマったのはすごく運命的だよね。往年の少女漫画に出てくるような、しかも日本にはいない美青年たちがワチャワチャしてるなんてたまらないじゃない。完全に腐女子かゲイ向けよ。ウォン・カーウァイ、美学を貫いて、一大ブームを巻き起こしてくれてありがとう」

 

これを観ればわかる!
ウォン・カーウァイ

『欲望の翼』(’90)

© 1990 East AsiaFilms DistributionLimited and eSun.com Limited AllRights Reserved
¥1429 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

‘60年代の香港が舞台。競技場の売り子スー(マギー・チャン)はプレイボーイのヨディ(レスリー・チャン)に交際を迫れ、関係を持つが長くは続かない。ダンサーのミミ(カリーナ・ラウ)はヨディのもとに転がり込み、スーは警官(アンディ・ラウ)から想いを寄せられる。

アンディ・ラウ
「いわゆる香港四天王と呼ばれていた人のひとり。『欲望の翼』の警官役のときは特にだけれど、昔はすごく色っぽくて、本当に素敵でしたよね。永遠の独身貴族なのかと勝手に思ってたけど、残念ながら結婚しちゃった。今の彼を見ると、あのお歳であの肌の艶感は、ちょっと美を追求しすぎじゃない?と思っちゃうけどね(笑)」

 
『恋する惑星』(’92)

© 1999, 2008Block 2 Pictures Inc.All Rights Reserved.
¥1500 発売元:アスミック・エース株式会社 販売元:株式会社KADOKAWA

金髪の女ディーラー(ブリジット・リン)と、恋人にふられ落ち込み気味の刑事モウ(金城武)。そしてモウが立ち寄る小食店の店員フェイ(フェイ・ウォン)と、恋人にふられてしまう警官(トニー・レオン)。平行線をたどる二組の男女の関係を軸にしたラブストーリー。

 
『天使の涙』(’95)

© 1999, 2008Block 2 Pictures Inc.All Rights Reserved.
¥1500 発売元:アスミック・エース株式会社 販売元:株式会社KADOKAWA

殺し屋(レオン・ライ)とエージェント(ミッシェル・リー)。彼女が暮らすマンションの管理人の息子モウ(金城武)。失恋したての女の子(チャーリー・ヤン)。殺し屋に恋する金髪の女(カレン・モク)。『恋する惑星』から派生した、5人の男女のすれ違いを描く群像劇。

 
『ブエノスアイレス』(’97)

© 1997, 2008 Block2 Pictures Inc. AllRights Reserved.
¥1500 発売元:アスミック・エース株式会社 販売元:株式会社KADOKAWA

ブエノスアイレスへとやってきた、ウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)。喧嘩別れしてはよりを戻しを繰り返してきた2人は、些細な諍いで別れるが、どっちつかずな関係が続く。そんな中、ファイは台湾の旅行者チャン(チャン・チェン)と出会う。

 
『花様年華』(’01)

© 2000, 2009Block 2 Pictures Inc.All Rights Reserved.
¥1500 発売元:アスミック・エース株式会社 販売元:株式会社KADOKAWA

1962年の香港。新聞社の編集長であるチャウ(トニー・レオン)が引っ越しをした同じ日、隣の部屋に越してきたチャン夫人(マギー・チャン)。隣人になり、言葉を交わすようになった2人。チャウは妻がチャンの夫と不倫していることに気づき、彼女に接近する。

 
『2046』スペシャル・エディション('04)

© 2004Block2pictures.Inc.
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ

『欲望の翼』『花様年華』に次ぐ’60年代三部作。心の底から愛した女性と結ばれなかったチャン(トニー・レオン)は、「2046」という小説を書き始める。それは、“失われた愛”を取り戻そうと“2046”という場所を目指してミステリートレインに乗り込んだ男女の物語だった。

木村拓哉
「『2046』は満を持してのウォン・カーウァイと木村拓哉のタッグということで、待つに待たされたわりに、観てみたら空前のポカーン映画でしたよ。2046年の話かと思いきや、部屋番号だけかよという。キムタクも綺麗なだけ。窓際で座ってるイメージの。彼じゃなきゃダメだったのかな?という感はいなめなかったです」

 
『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(’07)

© Block 2 Pictures2006
¥1800 発売元:アスミック・エース株式会社 販売元:株式会社KADOKAWA

恋人の心変わりで失恋したエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、毎晩、ブルーベリーパイを用意し、話を聞いてくれるオーナー、ジェレミー(ジュード・ロウ)のカフェに出入りするように。どうしても恋を引きずってしまう彼女は、新たな恋に踏み出すため、ひとり旅に出る。

ジュード・ロウ
「賛否両論割れた『マイ・ブルーベリー・ナイツ』、私は嫌いじゃないんだよね。ウォン・カーウァイ映画の中で一番わかりやすいから。最初と最後しか出てこないオーナーのジュード・ロウの影が、本編中ずっと見えるんだよね。彼がイギリス人俳優というのも良かった。アメリカ人なら他に女を作るだろうし、待つわけないもん」


●情報は、FRaU2017年3月号発売時点のものです。
Illustration:Hitoshi Kuroki(vision track) Text:Tomoko Ogawa Composition:Tomoko Ogawa

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