いま活躍する人のルーツを探る新連載、第2回のゲストは歌人・小説家の加藤千恵さん。インターネットで発表した短歌が話題となり、高校3年生で歌人としてデビュー。順風満帆なスタートではあったが、大学卒業後の進路に悩む日々も……。

 

加藤千恵さんのCHRONOLOGY

1983年
北海道旭川市生まれ

1999年
ホームページで短歌の発表を始める

2001年
短歌集『ハッピー アイスクリーム』(マーブルトロン)でデビュー
FMりべーる『かとちえ・舞のラジオラジオラジオ!』パーソナリティ
ファッション誌『Zipper』(祥伝社)で初の連載コラム

2002年
上京、立教大学文学部日本文学科入学

2009年
初の短編小説集『ハニー ビター ハニー』(集英社)

2010年
初の長編小説『誕生日のできごと』(ポプラ社)

2014年
『こぼれ落ちて季節は』(講談社)

2015年
ニッポン放送『朝井リョウ 加藤千恵のオールナイトニッポンZERO』

2017年
『点をつなぐ』(ハルキ文庫)

 

短歌を詠む17歳の歩んだ
シンデレラストーリー

画像: 短歌を詠む17歳の歩んだ シンデレラストーリー

高校3年生で歌人としてデビュー。そもそも短歌と出会ったきっかけは?

「中学生のときに、枡野浩一さんの短歌集『てのりくじら』と『ドレミふぁんくしょんドロップ』が書店で平積みにされていて、中を開いたら、そこに載っている短歌に衝撃を受けました。学校で習った短歌と全然違う!って」

 
もともと本を読むのは好きで、中学時代には少女小説をよく読んでいた。

「講談社X文庫シリーズ『ティーンズハート』の小林深雪さんが好きで、折原みとさんも読んでました。漫画は『天使なんかじゃない』『姫ちゃんのリボン』を連載していた『りぼん』。その頃から自分で物語を書いたりして。学園物のラブストーリーとか。中学校では『有閑倶楽部』と『天使なんかじゃない』に憧れて生徒会に入りました」

 
高校入学後、インターネットによって、大きな転機が訪れる。

「高校1年生のとき、家にネットを引いてもらって。当時、枡野浩一さんが掲示板をやられていて、あの短歌集の人だ、と思って私もそこに出入りするようになりました。その中に『よい子の歌謡曲』というミニコミ誌をやっていた方たちがいて、岡崎京子がおもしろいよとか、小沢健二が好きならフリッパーズ・ギターも聞いてみて、という感じで、年上の人たちからいろんなカルチャー情報を教えてもらったんです。あの頃、夜中だけネットが使い放題になるので、夜は起きてネットをやって、授業中はよく寝てました(笑)」

 
その掲示板に自作の短歌を投稿したり、自分でもホームページを作り、詩や短歌を発表するようになる。

「ホームページの名前は、江國香織さんの短編からとった『SWEET LOVERS』でした。『落下する夕方』も大好きで、中学時代に全編書き写しました」

 
やがて、ネット上に発表した作品がNHKの目に留まり、教育テレビで放送された『電脳短歌の世界へようこそ』という番組に出演。同じ頃、加藤千恵の才能に惚れた枡野浩一が出版社に売り込み、書籍化の話が舞い込む。

「自分で原稿を持ち込んだりしたわけではなかったので、本を出しましょうと言われても最初は信じられなくて、詐欺じゃないかと思ってました(笑)」

 
そうしてデビュー作となる歌集『ハッピー アイスクリーム』が出版される。

〈合格を祈願している場合じゃないだってあたしは恋をしたのだ〉

〈傷ついたほうが偉いと思ってる人はあっちへ行って下さい〉

17歳の瑞々しさが溢れる短歌集は、地元・旭川でも話題となり、コミュニティーFMで、同級生とラジオ番組のパーソナリティを務めることに。このときの経験をもとに書いたのが、番組タイトルとほぼ同名の青春小説『ラジオラジオラジオ!』(河出書房新社)だ。

「このタイトルはフリッパーズ・ギターの曲『カメラ!カメラ!カメラ!』からですね。音楽もずっと好きで、中学生の頃は川本真琴さんとか、Charaさんはファンクラブにも入ってました」

 
まるでシンデレラストーリーのような高校生活を終え、上京。立教大学の文学部に入学する。まわりから注目されたりはしなかったのだろうか?

「大学には読者モデルをやっている子とかもたくさんいたので、全然目立ったりはしていないですね。在学中に第2歌集が出たり、雑誌や文芸誌にエッセイを寄稿したりはしてましたけど、作家になろうと強くは思えなくて。同世代の綿矢りささんと金原ひとみさんが19歳と20歳で芥川賞を受賞したのを見て、作家を職業にするのはこういう人なんだって、ちょっと遠くに感じたりもしてました」

 
大学時代は、東京の文化を謳歌し、充実したキャンパスライフだった。

「音楽やお笑いのライブ、演劇が日常にあるのは驚きました。爆笑問題のラジオをずっと聞いていたので、渋谷のライブハウス・ラママに行った時は、聖地だ!って。あと大学時代の思い出は、普通に友だちとか恋愛とか」

 
加藤千恵には、恋愛を描いた作品が多い。そして、そのいずれも、見せかけではない、温度と湿度が存分に込められた、本物の感情を纏っている。また、2015年には朝井リョウと「オールナイトニッポン」のパーソナリティを務めるなど、その才能と興味は幅広い。

「就職活動もしましたけど、母の後押しもあって、最終的にはこの道を選びました。この年齢になって改めて思うのは、社会人になると、日々の仕事や生活だけでも大変なのに、その中で貴重な時間とお金を私の書いたものに使って、しかも喜んでいただけるというのは、本当に感謝しかありません」

 

INFORMATION

画像: INFORMATION

『点をつなぐ』 (ハルキ文庫)
コンビニチェーンでスイーツの商品開発を担当する28歳の滝口みのり。東京で慌ただしい日々を送るなか、たまに実家へ帰ると、両親や同級生との会話に距離を感じる。恋人は、もう何年もいない。果たして、これまで自分が選んできた「点」は正解だったのだろうか。

「初めて取材をして書いた仕事小説です。私も地元の北海道に帰ると、同級生には子供がいるのが普通だったりして、いろいろな場面で東京との温度差は感じます。仕事にしても恋愛にしても、自分で選んできたはずなのに、本当によかったのかな?と揺れ動く同世代の気持ちを書きました」

 
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●情報は、FRaU2017年9月号発売時点のものです。
EDIT:おぐらりゅうじ Illustration:Midoriko Sakakibara Photo:Naoto Otsubo

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