ここまで話を聞いてみて、わかる。『永い言い訳』で、あんなにかっこいいはずの本木さんが、情けなくてかわいそうな人に見えた理由が。自身を投影させたという幸夫に、西川さんのむき出しの葛藤が託されていたからだ。

FRaU 2016年11月号掲載インタビュー、ラスト第三弾公開。

 
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自己完結しているなんて
全然素敵なことじゃない

画像1: ©2016「永い言い訳」製作委員会

©2016「永い言い訳」製作委員会

映画の中で、その美形の表現者は、妻を失うことによって、元々あった自分の空洞に気づかされる。妻を失ったから、心に穴が空いたのではない。結婚という契約を隠れ蓑にして、妻と深く関わっていない自分をずっと見て見ぬ振りをしていた。自己ではなく他者を深く思いやるという感情が欠落していた主人公は、母を失って心に穴の空いた子供たちと、その父親と格闘することで、人を深く愛するという感情を取り戻していくのだ。

「本木さんは、表面的な綺麗な世界からは想像できない内面を孕んでいるところに、幸夫とすごく近い部分がありました。本来は、人間の愛すべき弱さをたっぷり持っているのに、完璧に見えるせいで、そのナイーブな内面がなかなか周囲に理解されない。

小説を書き上げたとき、今回は役に近いキャラクターの方に演じてほしいと思いました。もちろん、どんな役でも本人らしさはどうしても出てきますけれど、それ以上に、もっと内面の葛藤みたいなものがリンクしているほうが重要だった。一緒に悩んで、本人の出したことのない内面性のようなものが出ると、その俳優にとっても私にとっても新しいものになると思ったので。本木さんの内面が、幸夫と似ていたのはとても儲けものでした(笑)」

 
いつか本木さんと仕事をしてみたい。西川さんは前からずっとそう思っていた。でも、役の雰囲気や年齢、キャラクターと合わず、断念してきた。

「今回は、たまたま是枝監督が、樹木希林さんや本木さんの娘さんの伽羅さんとお仕事されたことがあって、本木さんとも一緒にご飯を食べたことがあるらしく、台本を読んで、『今回こそ本木さんじゃない? すっごく似てるよ、幸夫に』って言ってくださったんです。

台本からは、ちょっと嫌な奴ともとられかねないキャラクターだったので、『面倒な人なんですか?』って聞いてみたら、『それが、なんとも説明がつかないんだけど、とにかくチャーミングなんだよね』って」

画像2: ©2016「永い言い訳」製作委員会

©2016「永い言い訳」製作委員会

 
実際に仕事をしてみると、「俳優と過ごした時間、という意味では間違いなく最長」と西川さんが断言するほど、本木さんは常に迷い、悩み、自問自答を繰り返す人だった。

「一言で言えば手がかかる(笑)。でも、とてもかけ甲斐がある方なんです。たとえば、衣装合わせだけでも8時間かかって、それは通常の5倍の時間にあたるんですが、そうやって延々ひとつのことに時間をかけることで現場が活性化したんです。

本木さんと関わったスタッフは、いつも飲み会のときに、本木さんの話になる。『本木さんがまたさ〜』って、口の端に上ることも含め、『明日、本木さんくるからあれしておかなきゃ』とか、みんなが本木さんを愛し、そのペースに巻き込まれていく。大人なのに、一途な子供みたいな。

本木さんと出会って、ほどよく人に迷惑をかけることは、すごくいいことなんじゃないかと思いました(笑)。たぶん、ご本人は自己完結のできない自分のことを恥じていると思うんですけど。本当に、本木さんを見ていても、『自己完結するって、全然素敵なことじゃないんだ』って気付かされましたね」

 
人との出会いも含め、この作品を通して人生観に変化があった。

「私のことでいうと、この先、結婚したほうがいいんじゃないかと思うようになりました。してくださる方がいないとどうにもならないし、現時点で相手もいないんですけれど。だって、こうやって自己完結したままでは、もうドラマは生み出せない。厄介ごとを背負うほうが、私たちの商売にとっては役立つので……。一人でいて、見つかるものもさらにあるのかもしれないけれど、それはわからないですよね。

とにかく一つ言えることは、小説を書くことも含め、ラクをしていても何も得られないってことなんです。家庭を持てば、きっと厄介な部分が付きまとうはず。それも織り込み済みで、家庭というものを持つと、面白いかなと今は思っています。

20代の頃は、厄介ごとを抱え込むのが嫌で、結婚を選択しなかった部分が大いにあります。怖かったんです、荷物が増えることが。私は、仕事以外で他人と深く関わることを “荷物” と捉えてしまった。結婚のいい面を見つけること、結婚に夢を見ることができなかった」

 
人は、永遠に成長はできないかもしれないけれど、変化はする。それが、西川さんの持論だ。

「愚かな人間が変化していくさまを、描きたいなって思うんです。年齢を重ねていくと、人はどんどん凝り固まって、頑固になっていくけれど、たとえば、一度も子供を可愛いと思ったことはない男でも、小っちゃい子供と2人きりにされたら、『なんとかしなきゃ』と思う気持ちは芽生えるはず。悪事を重ねてきた人にだって、善意が芽生える瞬間はあるし、そういう人の意識の変化が、私は面白いんです。古今東西の文学も、そういうものを書き続けてきたと思いますし、私自身、人を決めつけずに、人と付き合っていきたい」

 
そんな西川さんが一番「恵まれているなぁ」と思うのが、人との出会い運なんだとか。

「いいときにいい人と出会えるようになっています。私の人生は」

変容する切実――。2年後あるいは3年後、あらたな厄介ごとを抱え、そのとき初めてむき出しになる感情がある。次なる出会いを引き寄せられたら、彼女は果たして、どんな物語を紡ぐのだろうか。

 

PROFILE

西川美和さん
1974年生まれ。広島県出身。早稲田大学第一文学部卒。大学在学中に是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』にスタッフとして参加。フリーランスの助監督を経て、'02年『蛇イチゴ』で監督デビュー。長編2作目となる『ゆれる』('06年)がロングランヒット。'09年『ディア・ドクター』、'12年『夢売るふたり』とオリジナルストーリーでの話題作を提供。

 

INFORMATION

『永い言い訳』
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻の夏子(深津絵里)が旅先で事故に遭い、親友とともに亡くなった知らせを受ける。妻が亡くなった夜、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対し、悲劇の主人公を装うことしかできなかった。そんなある日、妻の親友の遺族であるトラック運転手の陽一(竹原ピストル)とその子供達に出会った幸夫は、ふとした思いつきから、子供達の世話を買って出る。


●情報は、FRaU2016年11月号発売時点のものです。
photo:Ayumi Yamamoto Interview:Yoko Kikuchi

 
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