一見つながりがなさそうな二つの物事のあいだから、実はとびきりポジティブな消費の関係が見えてくることも。今回のテーマは、ずばり「老い」と「萌え」です。

 

今月のBOOKは……

画像: 今月のBOOKは……

『いとしのおじいちゃん映画 12人の萌える老俳優たち』ナイトウミノワ(立東舎)
「おじいちゃん評論家」を自称する著者が愛してやまない老俳優たちの魅力をとことんチャーミングに綴った一冊。名作映画の秀逸なレビューでありながら、ショーン・コネリーが「いつからおじいちゃん的風貌になったのか」検証したり、とにかく遊び心にあふれている点が素晴らしい。

 

「“おじいちゃん萌え” とは?」

「枯れ専」。

数年ほど前からいつのまにか目にするようになった用語だ。たいていは脂っ気の抜けた——つまり「枯れた」味わいを備えた男性をもっぱら恋愛対象とする人びとを指す。「50代以上の男性」だの「10歳以上歳の離れた男性」だの、細かい定義に関しては諸説あるが、むしろ肝心なのは「恋愛対象とする」の部分だろう。要するに、そこには性的魅力に対する欲望が多少なりとも介在しているわけだ。

 
ところが、この世には「おじいちゃん萌え」としか言いようのない、実にほがらかな消費世界もまた存在する。

ナイトウミノワの『いとしのおじいちゃん映画』は、さまざまな映画作品を引き合いに出しつつ、ひたすら「おじいちゃん」の魅力を追求していく超絶ユニークなエッセイ集だ。誰もがよく知るスーパースターから、映画ファン垂涎のいぶし銀俳優まで、個性豊かな12人の俳優たちにスポットライトを当てている。

最大の共通点は「還暦を迎えていること」。シワの刻まれ方はもちろん、頰のたるみ具合、伸びすぎた眉毛、もふもふのヒゲの質感、老眼鏡をちょこっとずらす仕草など、ありとあらゆる「おじいちゃん要素」を丁寧に取り出した上で、きっちりと「萌え」を見出していく。

たとえば、ジャック・ニコルソンが演じるキャラクターは、頑固で毒舌な「ぶすくれおじいちゃん」と評される(言い得て妙!)。アカデミー主演男優賞を受賞した『恋愛小説家』はその典型だ。

主人公は独り暮らしの偏屈な老作家で、好き嫌いの激しさゆえにいつも周囲を困らせてばかりいる。そんな面倒くさいおじいちゃんが、ひょんなことから隣人の飼い犬を預かる羽目に。最初はぶつくさ言っていたものの、ワンコのいたいけなぬくもりを前に、あっというまに骨抜きにされていくさまがなんとも……かわいいがすぎる。

 
そう、やりたい放題の気難しいワガママおじいちゃんでさえ、なぜかかわいく映るのである。この「かわいさ」「いとおしさ」は一体どこからやってくるのだろうか?

老成とはいうものの、実際は歳をとればとるほどできないことばかり増えていく。だから自意識のコントロールも利かなくなる。トゲのある態度は、ずたぼろのプライドを守るための隠れ蓑にすぎない。〈おじいちゃんは生まれたときからおじいちゃんではないのです〉——著者のこの一文には「老い」のすべてが詰まっている。

要するに、「おじいちゃん」とは時間を含み込んだ存在なのだ。そこには当然、私たちの未来の姿も混ざり込んでいる。自分自身の「これからの時間」をもいとおしむということ――いうなれば「おじいちゃん萌え」とは、人生をポジティブに受けとめるためのレッスンでもあるのだ。 

 
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PROFILE

倉本さおりさん
1979年生まれ。ライター、書評家。『小説トリッパー倉本さおり 』、『週刊新潮』誌上にて書評コラム連載中。共著に『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』(立東舎)。

 
●情報はFRaU2017年10月号発売時点のものです。

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