三足のわらじが履けないのなら仕事を諦める。それもひとつの手段だが、なかにはその仕事を優先順位の一番に挙げ「諦めたくない」と思っている人も。そういう場合はどうすればいいのか、二人にたずねてみた。

FRaU 2016年10月号掲載、漫画家・東村アキコさん × 写真家・植本一子さん 対談<後編>公開。

 
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仕事を頑張りたいのなら
結婚を捨てるという方法も

植本 それはもう、周りの協力や他人の手を借りながら “子育て” の荷を軽くするか……。

東村 それか “結婚” を捨てるか(笑)。例えば “結婚=旦那の収入” と考えて、そこを捨てる。つまりは、専業主夫として旦那に家庭に入ってもらう。私の知り合いの編集者に、まさにそのスタイルで結婚生活を営んでいる人が2人いるんですけど、それはもう奥さんは生き生きと働いていますよ。私ね、仕事を頑張りたい女性にとっては、ある意味、究極の理想の形だなって思うんですよね。

植本 一家の大黒柱になれるくらい稼げるのであれば、全然アリですよね。

東村 また “結婚=旦那” と考えて、いっそ旦那を捨ててしまうという方法もありますよ(笑)。

植本 そういえば、東村さんは一度離婚を経験されているんですよね。

東村 そうなんですよ。出産後、すぐに夫婦関係がうまくいかなくなって別居したので、最初からシングルマザーみたいなもんだったんです。もちろん大変なこともたくさんありましたけど……旦那がいないと “旦那の世話をする” という仕事がひとつ減るから、それはそれで楽だったりもして(笑)。旦那の食事も作らなくていいし、旦那の洗濯物もたたまなくていい、何より、喧嘩もしなくて済むわけですから。

子供と二人きりになってからは、感情を爆発させて泣きわめくようなこともなくなりました。そこで思ったんだけど、キーッてなるのって、実は旦那へのアピールなんですよね。「私はこんなに頑張っている‼」「こんなに辛くて大変なのよ‼」って。

植本 それ、スゴくよくわかります。

東村 でも、子供と二人だと、旦那というギャラリーはいないし、子供にぶつけたところで理解できないから。それはもう憑き物が取れたように、シングルになってからは泣きわめかなくなったんですよ(笑)。

 

自分にとって何が大切か。
それを知ることが大事

画像1: 自分にとって何が大切か。 それを知ることが大事

東村 一度目の離婚話をしたところでなんですが、実は私、二度目の結婚も上手くいっていないんですよ。諸事情により、あまり詳しくは話せないんですけど(笑)。育児と仕事の両立はもちろん、結婚生活と仕事の両立も大変。それを痛感しているからこそ思うんだけど……植本さんの旦那さん、石田さん(ECDさん)ってスゴイよね‼

植本 そうですね、私も思います(笑)。

東村 いや、フラウ読者の皆さんも『かなわない』を読めばわかってもらえると思うんだけど、思い悩む植本さんをドンと受け止め、植本さんの生き方をちゃんと尊重してくれる、植本さんの一番の理解者なんですよ。

植本 本当に、石田さんじゃなかったら、私は結婚生活を続けてこれなかったと思います。世の中には、仕事を続けることも、シッターさんに子供を預けることも、許してくれない男性はまだ沢山いると思うし。親と上手くいかないことも「ま、いいんじゃない」と言ってくれ、さらには、私が他に彼氏をつくり恋愛することも「それがあなたの生き方なら」と認めてくれる。私たちの夫婦関係は理解してもらえないことも多いんですけど、石田さんには本当に感謝しています。

東村 私はお二人の関係は素敵だと思いますよ。そして、石田さんという “滅多にない当たり” を選んだ植本さんもスゴイと思う。一番の理解者であるのはもちろん、子供の送り迎えもしてくれて、家のこともしてくれる……今までいろんな家族を見てきたけれど、こんなにやってくれる旦那は一人か二人。私の周りにはとりあえずいない。漫画畑にはいないけど、ミュージシャン畑に行けばいるんですかね、石田さんみたいな人……。

植本 ははははは!!

東村 またさ、それを20代前半という若さで見極めたのがすごいよね。

植本 石田さんの本を読んだり曲を聴いたり、最初から彼の思想には惹かれていたので。意識せずとも何か感じていたのかもしれませんね。私にとって一番大切なのは自由であること。石田さんはその私の “大切なこと” を尊重してくれる大事な人なんですけど……。

私ね、東村さんの “三足のわらじ” 論にはすごく賛成なんですよ。育児とクリエーションの間で思い悩んでいた時は、なかなか気づくことができなかったんだけど、今振り返ると、あの頃の私は、自分の欲しいものではなく、世の中に主軸を合わせていたから、しんどい思いをしていたのかなって。

「世間では何が正解なのか」「常識から外れていないか」「周りの目にはどう映っているのか」「自分はちゃんと良い母になれているか」そんなことばかりを気にして「自分がどうしたいのか」ちゃんと考えていなかった。

例えば、結婚や出産も同じで。田舎出身っていうのも大きいのかもしれないけど「結婚しなきゃいけない」「子供を産まなきゃいけない」「じゃないと、周りからやいのやいの言われる」そう思い込んでいて。今考えると「結婚しない」「子供を産まない」そういう選択肢もあったのになって。

 

――思い悩み苦しんだ結果「私にとっては自由が何より大切なんだ」ということに気づき「そこからはだいぶ楽になりました」そう言葉を続けた植本さん。

植本 東村さんの “三足のわらじ” 同様に、自分にとって何が大切なのか知ることはすごく大事。それがわからないと、身動きが取れなくなってしまうから。子供の有無は人それぞれだけど、結婚はしたほうがいいと思う。

 

――世間の声ではなく、自分の声に耳を傾け、何が大切なのかを知る。それが、苦しい状況から抜け出す糸口に。そこでなにを選択するかは人それぞれ。明確な正解など存在しないからこそ「幸せの形も人それぞれだ」と声をそろえる二人。

画像2: 自分にとって何が大切か。 それを知ることが大事

植本 ここまで “働く母のリアル” というテーマに沿って話してきたけれど “子供がいない結婚” もひとつの幸せの形だと私は思うんですよ。

東村 それは私も思います。子供がいないぶん、二人の関係を大切にするからこそ、ずっとラブラブな夫婦も多いしね。その代わり、その場合は旦那選びが重要になってきますよね。子供を産むと旦那の存在ってドライバーさんみたいな。「車で長距離移動する時はいたほうがいいな」みたいな。それくらいの存在になってくると思うんですけど。これが二人きりの生活となると、相手がドライバーさんって訳にもいかないだろうし(笑)。

植本 ちなみに、子供を産むかどうかは人それぞれだけど、結婚はしたほうがいいと思いますか?

東村 一度失敗している私が言うのもなんですが、私ね、結婚に関しては、個人的にはしたほうがいいと思っているんですよ。

独身の間って、ある意味、人生のステージの上に立ち続けている状態。自分のことだけを考えて生きているから、ずっと自分が主役なんですよね。でも、主役としてステージに立ち続けるのは、正直、しんどい‼ スポットライトを浴びない脇役のほうがよっぽど楽っていうか。でも、一人でいる限り、そのステージから降りることができない。結婚して “誰かのために” という名目ができると、そのステージから降りることができるんですよ。

また、やっぱり人間って夢とか目標とかないと頑張れないから。自分のためだけに生きていると、いずれ息切れする瞬間がやってくるんですね。その時 “誰かのために” が力になる。家族がいればそれだけ、目標や夢が増えるわけですから。

植本 それ言うなら、私は今、石田さんのために家を建てたいと思っているんですよ。老後に住む場所を確保して、早く安心させてあげたいなって。

東村 それ、それですよ‼ 自分一人で頑張るのって、やっぱり限界があると思いますもん。

 

インスタグラムの外側に
結婚生活の真実が隠れている

画像: インスタグラムの外側に 結婚生活の真実が隠れている

東村 ちょっと話は変わっちゃうんだけど。私ね、植本さんの本を読んで心に残っている言葉があるんですよ。それは「自分には理想があって、そうなれない自分に落ち込んだ」という一節。これって、多くの人に当てはまると思うんです。

そもそも、みんな結婚生活や人生に夢を見すぎというか、理想を高く掲げすぎというか……。結果、それが自分自身を苦しめてしまっている。だからこそ、植本さんの本は読んだほうがいい。ウキウキワクワクするような、結婚前に夢見るような、いわゆるドラマに描かれるような、そんな瞬間がこの本には全くないんですよ(笑)。

植本 はははは‼ まさにその通り‼

東村 私ね、暇なときによくヤフー知恵袋をチェックするんですけど(笑)。そこで “結婚 失敗” とかで検索したりすると「昨日、結婚式を挙げたのですが涙が止まりません。ずっと泣いています」そんな投稿がわんさか上がってくるんですよ。要は、結婚式からもう理想通りにはいかないっていうね。

そういう私も若い頃は「人生には美しい瞬間がたくさん訪れる」そう信じて生きていました。でもさ、これがまた、ま〜驚くほどに訪れない(笑)。宮崎から華やかな東京に上京してきたのに、オープンカフェに通うような時間はなく、結果、毎日『マルエツ』ばっか通っているっていうね(笑)。その現実に早く気づいたほうが、楽になれると私は思うんだよね。

植本 期待してしまうから落胆も大きい。理想が自分を苦しめる……。そこは激しく同感です‼

東村 さっきもチラッと触れたけど、やっぱりSNSがよくないよね。働く素敵なママ達が、これまた素敵な写真をインスタグラムにあげたりするでしょう? それが “素敵なママ” の幻想をどんどん膨らませてしまっている。

植本 でも、あの写真、絶対にトリミングしていますよね(笑)。

東村 まさにそう‼ あの素敵なパンケーキの写真の外側、写真に写っていないあの外側は、シッチャカメッチャカかもしれない。生活をトリミングしているから彼女たちは素敵に見えるんです。真実はトリミングされた外側にあり‼ その外側を描いているのが、植本さんの『かなわない』。FRaU読者には是非読んでもらいたい!!

 

PROFILE

画像1: PROFILE

マンガ家
東村アキコ AKIKO HIGASHIMURA
宮崎県生まれ。1999年『フルーツこうもり』でデビュー。自身の半生を描いた『かくかくしかじか』で第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。現在『東京タラレバ娘』『雪花の虎』『美食探偵 明智五郎』を連載中。美容誌「VOCE」の美容体験連載をまとめた『即席ビジンのつくりかた』が9/13発売予定。

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画像3: PROFILE

写真家
植本一子 ICHIKO UEMOTO
広島県生まれ。2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞。写真家として、広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。2013年より下北沢に自然光を使った写真館「天然スタジオ」を立ち上げ、一般家庭の記念撮影をライフワークとしている。著書に『働けECD~わたしの育児混沌記~』『かなわない』がある。

 
●情報は、FRaU2016年10月号発売時点のものです。
Photo:Yumi Hosom(i go relax E more) Hair & Make-up:Miyuki Ishikaw(a allure) Text:Miwa Ishii

 
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