本は読みたいけど、自分で選ぶのは難しい……。そういうときこそ、人に聞いちゃいましょう。

今回は、写真家・川瀬一絵さんが、これまでの人生で出会った本と、その魅力を紹介してくれます。

 

本を読む人……

ななにんめ:川瀬一絵さん

画像: ななにんめ:川瀬一絵さん

PROFILE
1981年島根県出雲市生まれ。写真家。池田晶紀の主宰する「ゆかい」所属。写真集に『初詣』『粒と穴』がある。
kazuekawase.com

 

ゆっくりページをめくりたい、
細胞がざわざわする写真集3選

スマホの中の写真を見返していると、思い出や記念以外に、意味がわからない、なにこれ……という写真が時々紛れていると思います。

なにかの拍子に撮れちゃって、とか、なんで撮ったのか記憶にない。でもなんとなく消去できない、写っているものが感覚に訴えてくる。言葉や時代の流れではない、確かなものが写っているのだと思います。

ここでは、そういう事象に敏感な作家の写真集を紹介します。それぞれ系統は違いますが、細胞がざわざわ、脳がピリピリする写真集。ページをめくる動作も気持ち良く、本の世界にじわじわと引き込まれてしまうもの。部屋を片付け、広い台に写真集を置いて、座って無心にページをめくるのがおすすめです。

 

一枚一枚が絶妙に詠まれた詩のよう

画像: 野口里佳『夜の星へ』(NOHARA BOOKS)

野口里佳『夜の星へ』(NOHARA BOOKS)

野口さんの写真は、一枚一枚が絶妙に詠まれた詩のようです。プリントの隅々にまで意識が張り巡らされていて、穏やかな画面なのに脳の明晰度が上がるようにピリピリします。

何が写っていて……と理解するというより、印刷された「紙」という繊細さも含め、物質としての存在を感じるのです。

一本のフィルムを撮った順に並べてある、この写真集。「撮った順番に1コマずつ見ていると、なぜか撮影しなかった瞬間のことの方が鮮やかに思い出される。写真の秘密がそこにあるのかもしれない」と、同タイトルの展覧会のステートメントにあった通り、パラパラと72コマの写真を高速で見ていると、写真の間に挟まれる黒いページや物理的に写真を隔てている部分に、自分の記憶やいつか見た夢を重ねてしまいます。

 

日本の家庭で見る
いとおしい日用品たち

画像: 安村崇『日常らしさ』(オシリス)

安村崇『日常らしさ』(オシリス)

プラスチックの籠に盛られたみかん、プリント合板の壁にねじ込まれたプラスチックのカラーフック。ドアノブのファンシーなカバー。タンスの上のキンチョール。日本の一般家庭で見かけがちな日用品やしつらえのあからさまな登場っぷりに、プッと吹き出しきれなくてもやもやする。

作家の実家で撮影されているのに、とても不自然。画面の隅々まで精巧にピントが合わせられた、日用品の組み合わせの妙に、つい意味を見出そうと頭が働いてしまうのですが、モノにまつわる記号と実際の存在感がわずかにズレているようなのです。一周まわって、実はなにも意図されていないのかも……と思ってしまうほど。大量生産されて安価に消費させられている、ちょっと残念なモノたちですが、いとおしいのも確かです。

 

10代の頃の独特の感覚が
ぶわっとよみがえります。

画像: HIROMIX『光』(rockin'on)

HIROMIX『光』(rockin'on)

私が中高生の頃、女子たちは使い捨てカメラで友達や周りのものを撮りまくっていたのですが、その流行、つまり自撮りとガーリーフォトブームを巻き起こした写真家のひとりが、HIROMIXでした。

写真集の蔵書が決して多くない私の地元・島根の図書館にも、この『光』はありました。空、池の蓮、神戸の海、シャンデリア、遊園地、鳥の群れ……。彼女が立ち会った目の前の光景が刹那に写しとられており、10代の頃の独特の感覚がぶわっとよみがえります。うっとりと眼の前の景色にのみこまれそうになる。孤独感の一方で、実在感もある。

縦60センチある大型の本のつくりと、35ミリフイルムで撮影した写真をそのサイズに引き伸ばしたゆえにあらわれる粒子面が、記憶のなかの胸のざわめきを一層引き立てます。

 

●情報は、FRaU2016年8月号発売時点のものです。

 

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