撮影中の彼女は、そこにいる誰もが、息をのむほどに美しかった。笑うときも、黙るときも、ただ自然にそこにいるだけなのに。呼吸して、見つめて、目を閉じて、ときに無になる。心の内で何が起こっているかはわからない。でも、撮影を楽しんでいることだけは、よくわかった。

きっと彼女の “キレイのもと” は、その心の持ちようにある。そんな気がして、自分語りが苦手だと話す長澤さんに、仕事について、結婚について、子供時代のこと、大人になるということについて等々……様々な質問をぶつけた。そうして、彼女らしい、あったかくてキラキラした母性の欠片に出会った。関わった人に対しては、つい家族のような愛情を注ぎたくなる―― 。そんな、彼女の人としての温かさに触れた。

 

自分じゃない人間を演じるのが仕事
だったら、自分のことなんか
わからないままでいい

画像: ジャケット¥315000、パンツ¥110000、シューズ¥130000/セリーヌ ジャパン(セリーヌ)

ジャケット¥315000、パンツ¥110000、シューズ¥130000/セリーヌ ジャパン(セリーヌ)

自分について語ることが、あまり得意ではないという。

「10代の頃はとくに、取材されるのが苦手で、インタビュアーさんをいつも困らせていました。何か質問されると、つい長い間考え込んで、黙っちゃったりして……(苦笑) 

「長澤さんは、どういう性格ですか?」と訊かれたときなどは、とりわけ困惑しました。自分の性格を把握したいと思ったこともないし、10代の考えなんて、日々の気分でコロコロ変わるし、『わかんないなぁ』と思いながらも無理矢理何かを答えたり、取材を受けること自体何かの宣伝を兼ねていることが多いので、その時の役の感情で答えていたりして、出来上がったインタビュー記事を読むと、『この答え、やっぱり違った』などと反省することはしょっちゅうですね。

メディアから流れてくる自分の言葉を聴いたり読んだり、そのときの表情を自分の目で確かめたりしながら、『私ってどういう性格なんだろう?』ってますますわからなくなってしまうことが、よくありました」

と、一瞬寂しげな表情をしたかと思うと、次の瞬間には口角を上げて微笑みながらこう続けた。静かな、澄んだ声だった。

「私、人からどう思われようと、どう見られようと、実はどうでもいいんです。俳優という仕事をやっていく上では、本人がどういう性格であるか、どういう人間であるかは関係ないと思うから。これが、俳優じゃなくて自分自身で勝負しなくてはいけないのだとしたら、自分を確立しなくちゃいけないし、守るべきイメージも生まれてしまう。それはきっと、大変なことだろうなと思うし、それはそれでまた凄いことだなと思います。私は、私自身の性格がどういうものなのか、大勢の人に知ってもらいたいと思ったことは、実は一度もなくて……。私にもわからないんだから、きっと誰にもわからないだろうし、自分とは違うキャラクターを演じていくのが俳優なので、だったら自分のことなんてわからないままでもいい。そんなふうに思っています」

話しているときは、冷たくもなく熱くもなく。独特の穏やかな雰囲気を湛えた人である。ややもすると、ぶっきらぼうにも、投げやりにもとれるこんな発言も、彼女の声のトーンやリズムが、言葉の奥に深い誠意と真摯さを滲ませる。それが撮影であってもインタビューであっても、物事に対峙する姿勢が、キリッと真っすぐで、余計な企みや邪心のようなものが感じられない。まとっている空気そのものがキレイなのだ。
 

画像: 自分じゃない人間を演じるのが仕事 だったら、自分のことなんか わからないままでいい

14歳で静岡から上京して、大人たちの中に混じって、無我夢中で “演じること” に取り組んでから、5年以上の時が流れていた頃。20歳の彼女は、目の前にある仕事と向き合っているうちに、ふと、こんなことを考えた。

「俳優というのは、“好き” という気持ちだけで続けられる仕事じゃないのかもしれない」

新しい仕事の現場に行けば、会うのはほとんどが初めての人。台本には、演じたことのないキャラクターが描かれていて、周囲の人とのコミュニケーションも、役に対する取り組みも、すべてのことに対して、いっぱいいっぱいだった。

「役について思うことがあっても、それを監督に伝えることができなかったり。でも、自分の中の思いとか、熱量もすごいから、人の言葉に素直に耳を傾けられなかったりもするんです。聞き分けの悪い性格ではないと思うんですが、少なくとも、ちょっと頑なだったりとか、そういう時期はあったなぁと思う。多少落ち込んでも、深刻になるタイプではないんですが、完璧主義なところはあって。これができない、あれができないって、自分のキャパオーバーに対して、苦しんだことはあります。あとになって、スクリーンに映る自分を観て、『もっとできたなぁ』とか反省ばっかりしてました」

“好き” という気持ちがあったからこそ飛び込んだ仕事である。でも、好きだからこそこだわりも生まれ、自分の不甲斐なさに落ち込み、もがき、右往左往することになる。好きな仕事だから、振り回され、苦しんだ。そんな20代のことを、彼女は「長かったし苦しかったと思いますね」と、振り返る。

「20代を駆け抜けた、なんてカッコいい感じじゃ、全然ないです。社会人としては、たぶん私の14歳は “赤ちゃん期” で、本当に右も左もわからなかった。その中から、いろんなことを経験して、学習して、20歳ぐらいの時にようやく自我が芽生えて、多少の言葉も覚えて、社会人小学校に入学できるぐらいまでには成長できたのかな。でも、まだ物事の分別もつかない時期が続いて、30になってやっと大人学校の義務教育が終了したというか(笑)。知識と経験を積んで、今ようやく、余裕を持って、物事に冷静に取り組めるようになりました。20代って、社会人としては、まだまだ修行の時間なんだって思いますね。女は30からってよく言うけど、私は女っていうよりも、“人間は30からだなぁ” って思う。人間って、子供でいるうちは、人からしてもらうことばっかりで、人にしてあげられることが、ほとんどないんですよ。吸収力はすごいかもしれないけれど、視野も狭いし、言葉も知らないでしょ? でも、今は昔よりは広い視野で物事を見れている気がするし、心も穏やかで、“やっと30代だ! イエーィ!” みたいな(笑)。30代になってからは、今のところずっと楽しいです(笑)」

10年前は、「“好き” だけでやれることではないのかもしれない」と感じた俳優の仕事のことも、30歳になった今は、「“好き” という気持ちだけでやっていく仕事なんだ」と考えられるようになった。

「共演する先輩たちは、みんなキラキラ輝いて見えるんですけど、その輝きの源泉には、やっぱり “芝居が好き” って気持ちがあるんだと思います。みなさん、ずっとお芝居をしてないと落ち着かない人ばっかりですし(笑)。好きなことがあるということ、好きなことに出会えて、それを仕事にできているというのは、素晴らしく恵まれていることなんだと思いました。でも、お芝居にかかわらず、人や物事と関わる上で、一番大事なのは、“好きだ” っていう気持ちを持てるかどうか、ですよね。それさえあれば、多少のつらいこと、キツいことも乗り越えられる。好きなモノや人と一緒にいれば、自然と心が豊かになっていくものだから」

 

INFORMATION

©2018「嘘を愛する女」製作委員会

『噓を愛する女』1月20日(土)より全国ロードショー
一流企業に勤める完璧なキャリアウーマン川原由加利(長澤まさみ)は、恋人・小出桔平(高橋一生)がくも膜下出血で倒れたことで、その過去のすべてを偽っていたことを知る。彼が何者なのかを突き止めようと、由加利は、桔平の残した小説を手がかりに、私立探偵とともに、小説の舞台である瀬戸内海の島々を訪ねる。彼は、一体誰なのか。そして、桔平の嘘の理由とは――? 

 

PROFILE

長澤まさみ Masami Nagasawa
1987年6月3日生まれ。静岡県出身。2000年、第五回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ受賞。女優として、数多くのドラマ・映画・舞台・CMなどで活躍中。2017年は舞台『キャバレー』、映画『SING/シング』『追憶』『銀魂』、『散歩する侵略者』に出演。公開待機作は、映画『50回目のファーストキス』(6/1公開予定)、『マスカレード・ホテル』(2019年公開予定)。また、4月スタートのフジテレビ月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」に主演。人気脚本家・古沢良太によるエンターテインメントコメディーで初の詐欺師を演じる。

 
●情報は、FRaU2018年2月号発売時点のものです。 
Model:Masami Nagasawa Photo:Kazuyoshi Shimomura(UM) Styling:Miyuki Uesugi(3rd) Hair&Make-up:Yusuke Kawakita Text:Yoko Kikuchi

 
▼こちらの記事もチェック!

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.