いい女になりたい。でも、なにをもっていい女とするかはけっこう難しい。見た目も大事なのだろうが、歳を取るにつれて「中身も大事だろ」と思うようになってきた。しかしわたしの中身ときたら、長年ほったらかしにされ、曇ったり、ヒビが入ったり……早急にメンテナンスが必要な状況である。

というわけで、この連載では、マンガ・映画・小説などに登場するいい女について考察していく、憧れすぎて自分の中に「飼いたい」と思ってしまうようないい女たちから、大いに学ぼうじゃないか。

 

今月のいい女:
愛しつづける女

昨年末に『リリーのすべて』という映画を観た。世界初の性別適合手術を受けた男性についての小説が元になっていることは、なんとなく知っていた。が、その人に妻がいたことや、その妻が大変にいい女だということまでは知らなかった。いい女すぎて、観終わったあとしばらく口がきけないレベルだった。

作品の舞台は1920年代のデンマーク。若くして名声を得たイケメン画家・アイナーは、ある出来事をきっかけに、「女として生きていきたい」と思うようになる。というか、その気持ちは、幼い頃から彼の中にあって、理性で無理矢理フタをしてきた気持ちだった。

彼には愛する妻・ゲルダがいて、その結婚生活は、とても充実していた。しかし、女になりたいという気持ちに、もう嘘はつけない。もし妻のためにヘテロセクシャルのフリをすれば、自分の心を殺すことになる。この先の人生をずっと死んだように生きていくことに、一体なんの意味があるだろう。生きる意味を必死で追い求めるアイナーを、誰も責めることはできない。

最初おふざけ半分だった女装は、徐々に本格化、男とデートすることもある。時には、覗き部屋に出かけて、プロの風俗嬢から女らしい仕草を学んだりもする。そして最終的には、身体ごと女になりたいと、性別適合手術を受ける。彼は世界初の患者だから、当然ものすごくリスクが高い。しかし、アイナーの意志は揺るがない。

 
あなたの愛する人がセクシュアリティに違和感を持ったらどうするか? これはとても難しい問題である。でも、わたしは、ゲルダのやり方が正解だと思いたい。妻という立場じゃなくなっても、女として欲情されることがなくなっても、自分が愛すると決めた人を愛し続ける。愛の形は変えても、その熱量は変えない。アイナーが幸せであるように。アイナーの願いが叶うように。それだけを考え行動するゲルダは、最高にかっこいい。夫が夫でなくなっていくのを嘆くのは少しにして、あとはひたすらサポートに回る。誰にでもできることじゃない。愛だ。それも壮絶な愛だ。

結婚はふたりの「変わらぬ愛」を誓うものとされているが、死ぬまで変わらない愛なんてあり得ない。愛は変わる。いい方にも、悪い方にも、思ってもみない方にも。でも、変わってしまった愛が、すべて不良品なわけじゃない。そのことをちゃんとわかっているゲルダは、間違いなくいい女だ。

 
わたしも彼女のように夫を愛せるだろうか。夫に予想外のことが起きても、どっしり構えていられる、そんな頼もしい相棒でいられるだろうか。そうありたいとは思うが、一朝一夕にはいかないだろう。だからこそ、わたしは心に小さなゲルダを飼う。それは心のお守りだ。彼女が見守っていてくれたら、なんとかなる。そんな気がする。

 

PROFILE

トミヤマユキコ Yukiko Tomiyama
1979年生まれ。早稲田大学文化構想学部助教。少女漫画を中心としたカルチャー関連の講義、研究を行う。また、様々な媒体でコラムや評論も執筆中。今回が最終回です。これまでお付き合い頂いた皆様には心より御礼申し上げます。連載が終わっても、いい女になるための修行はずっと続きます!

 

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●情報は、FRaU2018年3月号発売時点のものです。

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