消費の形態自体がどんどん複雑になっている現代。「浪費」の定義もそろそろアップデートが必要かも? 今回はお金(と時間)の「使い方」の根っこにあるものを見つめてみます。

 

今月のBOOKは……

画像: 今月のBOOKは……

劇団雌猫『浪費図鑑』(小学館)
愛する対象に惜しみない金と時間を注ぎ込む女性たちの生活の実態に迫るエピソード集。告白エッセイや対談に加え、居住形態や毎月の手取り、貯金額など非常にリアルなお財布事情が浮びあがる「浪費女2000 人アンケート」も収録。

 

浪費の定義

「浪費」という言葉が文章の中で使われる場合、その部分を「無駄遣い」という言葉に置き換えてみても文意はほとんど変わらない。でも、改めてその語を分解して考えてみると、どことなくしっくりこない部分も出てくる。「費」はもちろん「使って失くすこと」を意味するものだとして、「浪」は「なみ」――ひとところに定まらない動きから「気まま、ほしいまま」というニュアンスを含み込み、これが「浪費」の語源につながっているらしい。

つまり「気ままに(お金や時間を)使って失くす」ことが「浪費」になるのだとしたら――それはほんとうに「無駄遣い」と言い切ってしまっていいものなんだろうか?

 
『浪費図鑑』とは、その名のとおり、特定の趣味やジャンルに惜しみない愛情と金を注ぎ込む女性たちの生活事情――すなわち「浪費」の実態を、当人たちの赤裸々な告白と共に紹介したものだ。ゲーム、同人誌、俳優、声優、アイドル、お笑い芸人、宝塚、ヴィジュアル系バンド、ホスト……2次元から3次元まで、ひとくちに趣味、あるいはオタ活といっても千差万別。外側からは見えにくい、ディープな世界で繰り広げられている消費のありように目が眩む。

例えば「溶かす」という用語。ほとんどのソーシャルゲームの世界では、ガチャと呼ばれる抽選システムを利用しないとレアなカードが手に入らない仕組みになっている。このガチャ、当然のごとく課金制なうえ、確率が非常にえげつない。目当てのカードが出るまで回し続けると、万単位のお金が「溶ける」ように簡単に消えてしまう。それでもお気に入りが出る確証はないというのだからなんとも業が深い。

「積む」という用語もオタクの世界では常識化している。近年、アイドルや声優のCDないしDVDには、握手会などの限定イベントに参加するための応募券が封入されていることが多い。ファンはこれらを複数枚購入することで――つまりはCDを堆く「積む」ことで、大好きな対象と一対一で向かい合うことができる、たった数秒の時間を買っているわけだ。

ほかにも、海外公演の多いアイドルを追いかけるとなれば、移動代や宿泊代だけで年間の出費は100万円以上。ホストクラブでシャンパンを開ければ、ひと晩で軽く20万円が飛ぶ。それでも彼女たちは、定期預金を崩したりダブルワーキングをこなしたり、時には親に頭を下げながら、万人には理解しがたい投資をギリギリで続けている。その理由はさまざまだが、ただ一点、揺るぎない共通項があるとすれば、これまでの「浪費」を彼女たちが揃って「後悔していない」と口にしている点だろう。

毎日働く上でのモチベーションにしている者。行き詰まった人間関係から距離を置くためのきっかけになった者。お金も時間も、ただなんとなく生きているだけで自動的に目減りしていくものだけれど、すくなくとも彼女たちは、自分が消費している対象を明確に自覚している。それは裏を返せば、人生を主体的に消費していることと同義なのだ。

 

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PROFILE

倉本さおり Saori Kuramoto
1979年生まれ。ライター、書評家。『小説トリッパー』『週刊新潮』誌上にて書評コラム連載中。共著に『世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今』(立東舎)。

 
●情報は、FRaU2018年3月号発売時点のものです。

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