世界的な経済危機や震災などを経て、モノや暮らしに対する考え方は、ゆるやかに、かつ大きな変貌を遂げようとしています。はたして私たちが手にしている多くのモノたちは、本当に必要なものなのか? 「シェアリングエコノミー」という概念が広がるなかでの、新しいライフスタイルの形に迫ります。

お話を伺ったのは……
佐々木俊尚さん
1961年、兵庫県生まれ。作家・ジャーナリスト。事件記者、雑誌編集者を経てフリーに。『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)ほか著書多数。

 

私たちの暮らしには
モノがあふれすぎている

「シェアリングエコノミー」という言葉が注目を集めています。日本語でいうと「共有経済」。いままでの資本主義経済が、モノを売る・買うというやり取りで成り立っていたのに対して、この新しい経済ではモノを共有したり、交換したりすることで生活を楽にしていこうという考え方が基本になっています。例をあげてみると、家をひとりで借りるのではなく、みんなで借りるシェアハウス。どこかに出かけるときに自家用車を使うのではなく、みんなで車を共有するカーシェアや、相乗りしてくれる人を探すライドシェア。旅行でホテルに泊まるのではなく、誰かの家に泊まる民泊。手のあいている人に料理や掃除などの家事を手伝ってもらう家事代行。これらが典型的なシェアリングエコノミーです。

なぜシェアリングエコノミーがやってきたのでしょうか。

いくつかの要因があります。ひとつは、私たちの暮らしにはもうモノがあふれすぎていて、消費ということにそれほど熱意を感じなくなってきたこと。しばらく前までは「高級な輸入車に乗りたい」「ブランド品を身につけたい」というような欲望が多くの人々に強くありました。しかしそういう感覚は、この10年ぐらいの間に大きく変化しました。世界的な経済危機や震災などを経て、人々の求めるものが物質ではなく、他者とのつながりのような精神的なものに変わってきたこと。そもそも安価で使い心地のいいモノがすでにあふれかえっていて、それ以上に多くを望まなくなったこと。要するに、消費に興味を持たない人が増えてきたということなのです。

さらに、SNSとスマートフォンの普及もシェアリングエコノミーを後押ししています。見知らぬ他人の家に泊めてもらったり、自動車に相乗りしたり、家に掃除に来てもらったりと、シェアの世界では初対面の人と接触する機会が多くなります。となると、どれだけその人が信頼できそうかという基準みたいなものが必要になってきますね。そのときにフェイスブックのようなSNSがとても重要になってくるのです。相手が日ごろどんなことを発信しているのか、どんな人と友人になっているのかはとても大事な情報ですし、事前にメッセージのやり取りをしていれば、その人の人間性はある程度は判断できます。つまりSNSというツールによって、見知らぬ人を信頼しやすい社会になってきているのです。そういう流れに沿って、シェアリングエコノミーがやってきたということなのです。

 

モノは人と人とを
つなげるためのツールとなる

シェアリングエコノミーが広がっていくと、私たちのライフスタイルや考え方は、どう変わっていくのでしょうか。モノをなるべく所有せず、共有や交換ですませることが多くなっていくのは間違いありません。

ミニマリストという、極度に持ち物を減らして暮らすライフスタイルを選ぶ人たちも増えてきています。ミニマリストたちはシェアの考え方を究極にまで進めていて、たとえば自宅に冷蔵庫を持たない代わりに、近所のコンビニやスーパーを自分の冷蔵庫として使う、というような考え方を採ります。これもシェアの一種と言えるでしょうね。

彼らは、トイレットペーパーや台所洗剤などの日用品も買い置きしません。買い置きするとストックを置いておく場所が必要になるし、溜め込んでしまうと、どれだけの量を置いているのか自分自身で把握できなくなってしまう恐れがあるから。シンプルに、その日用品がなくなったら買いに行く。つまりこれも、お店をストックのある倉庫と捉えるシェアの考え方なのです。

ファッションも、月額課金でスタイリストが選んだ服をレンタルできるシェアサービスが出てきています。着終わったらクリーニングに出す必要もなく、そのまま宅配便で返すだけ。自宅にたくさんの衣類を保管しておかずにすみ、大きなクローゼットは要らなくなりますね。

このようにシェア中心の生活を送っていると、だんだんとライフスタイルはミニマリストに近づいていき、「住まい」のあり方さえも変えていくことになるかもしれません。

不動産コンサルタントをしている私の友人は、「住まいを選ぶ基準が、これからは変わっていくよ」とよく言っています。いままでのように「戸建てかマンションか」「分譲か賃貸か」ではなく、「どの街に住むか」というほうが大切な基準になっていくのだというのです。住みやすさは街によってさまざまです。大手チェーン店の多い街を選ぶのか、個人商店の多い街に住むのかによって、ライフスタイルは大きく変わりそうです。最近は大手チェーンよりも、こぢんまりした感じの良い個人店のほうが好きという人は若い人を中心に増えてきています。こういう居心地のいい街に住み、シェアリングエコノミーを利用して暮らすというスタイルが、これから定着してくるでしょう。

さらにはシェアが広がっていくと、移動や住まいのコストも下がってきます。シェアハウスはすでに都市部の20代で一般的ですが、最近は地方在住の人が都市部に第二の拠点としてシェアハウスを借りて、多拠点生活をするというようなケースも現れてきています。じつは私もここ数年は、東京と長野県の軽井沢、福井県の美浜の3ヵ所に家を借り、3拠点を移動しながら暮らす生活を続けています。美浜町では地元のNPOと組んで「クリエイター・イン・レジデンス」という試みをスタートしており、さまざまな活動を地元で行うことを条件に、期間限定で無償で家を借りることができました。これもひとつのシェアのあり方と言えるかもしれません。

美浜の家で暮らしていると、近所の人に鮮魚やお菓子をもらったりと、日本の共同体に昔からあった互酬的な関係がいまも息づいているのを感じます。これも伝統的なシェアリングエコノミーですね。
あちこちを移動しながら暮らすのは楽しく、これからは多拠点を移動するシェアリングライフスタイルが広がってくるのではないかと、個人的には夢想しています。

かつては所有しているモノは自己表現で、ファッションも外出の際に自分を飾り自分を守る「ヨロイ」のようなものでした。でもモノは所有から解き放たれれば、心地よい日常を過ごし、いろんな人たちと横につながるためのツールへと変わっていくのでしょう。これこそがシェアリングエコノミーの本質なのではないでしょうか。

 
●情報は、FRaU2018年6月号発売時点のものです。
Illustration:Chika Miyata

 

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