米軍の “理不尽な占領” と闘い続けた実在の外交官・千葉一夫を、井浦新さんが演じた映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』が現在公開中だ。

「鬼の千葉なくして沖縄返還なし」と称された伝説の外交官――。昨年、NHKのBSで放送されたドラマを再編集したものだが、明らかにこれは “後世に遺すべき映画” である。テレビドラマと言えば、「アンナチュラル」での好演も記憶に新しいが、井浦さんは、どんな基準で出演作品を決めているのだろうか。

 

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「アンナチュラル」で役を育てていく
面白さを知りました

――映画俳優のイメージが強い新さんが、初主演を果たした映画が、是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』です。先ほどお名前の出た若松孝二監督や是枝監督、大森立嗣監督など、作家性の強い監督とよくタッグを組んでいる印象がありますが、作品選びの際、重視するのはやはり監督ですか?

井浦:(少し考えて)いや、脚本も含め、監督も、共演者も……全部を重視しているつもり……です。

もちろん、監督ありきで作品は生まれるので、監督との出会いは大事だと思いますが、自分が本当にその役や作品に必要なのかなども含め、トータルで。

あ、いや、そもそも、選んでいないですね。なんか、答えづらいなと思ったら、僕は作品を選んでなかった(笑)。

 
――それは、事務所のスタッフを信用しているので、そのスタッフが選んだものには黙って出演する、という意味ですか?

井浦:事務所にも、「選ばないで」と言っています。「とにかく順番で」と。

 
――え!

井浦:オファーをいただいた順で。もし、ご縁のある監督から来たオファーの1日前に、「初めまして」の監督からの仕事依頼があれば、そっちを優先させます。昔は選びすぎていましたね。とくに20代の頃は。
 

画像: 映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』©NHK

映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』©NHK

――ある時期から、順番で仕事を受けるスタイルにシフトしたんですか?

井浦:30代になってから、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』という映画で、若松孝二監督に出会って、そのときに言われたんです。

「作品を選ぶな、自分の可能性を自分で狭めるな。お前が20代でやって来たことは間違ってなかったと思う。でも、その “仕事を選ぶ” という時期を通過した今は、作品も役も選ばず、来たものをどんどんやってみろ」と。

その言葉が、僕をラクにしてくれた。そこからですね。「投げられた球は全部打ち返す」というやり方に変わったのは。

もちろん、役者ですから、「今これをやっているから、次は真逆の役を」みたいな極端な流れは好きなんですよ。でも、そうやって先のことを見越したりせず、目の前にある役にただただ没頭するほうが、体力とか持久力とか、とにかく “力” はつくんです。

そもそも、お話があるということが有り難いし、いつまでこうやって次から次へと演じる役が途切れずにあるかはわからない。だから、今は来た球は全部打ち返す、というやり方が、自分には合っているような気がしています。

ただ、いくつかの役を、縫うように演じていくことは、今の僕には向かないようで、一つの役に取り組んだら、とにかく一本勝負。そのほかの仕事は入れません。

今回の作品で共演した佐野史郎さんや大杉漣さんのようなベテランの役者さんたちは、みんな同時に3つも4つも作品を抱えて、縫うように役を演じていく。それはすごいと思います。

もう少し経験を積んで、芝居の極意のようなものを学ぶことができたら、もしかしたら、漣さんたちのように、打席に立つ回数も、増やしていけるかもしれない。そうなれたらいいなと思います。
 

画像: 眼鏡¥36000 /blinc(YUICHI TOYAMA / blinc)☎03-5775-7525 シャツ¥43000/MACH55 Ltd.(FRANK LEDER / MACH55 Ltd.)☎03-5413-5530

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――ということは、「アンナチュラル」の出演も、順番だったんですね。

井浦:役者としての僕は、映画に育ててもらったと思っていますし、映画への愛情は当然深いんですが、ドラマの世界でも、閉塞感を打ち破ろうとか、何かに挑戦しようとか、よりよい作品を作ろうとしているスタッフの方はたくさんいるんです。

システムが少し違うだけで、そこで仕事をしている人たちの熱量は変わらないんですよね。ただ、「アンナチュラル」に関しては、初めてドラマで、“役を育てていく面白さ” を経験させてもらいました。

10話と10時間をかけて、視聴者の方達に、役が変化して行く様や、人物像が豊かになって、育って行く様を見せることができて、自分自身もそれを楽しめていた。

それまでの作品では、僕がまだまだ未熟で、役を育てることができていなかったんでしょうね。ただ、「アンナチュラル」は、それこそスタッフの熱量もすごかったし、チームの結束力も強かった。

どうしても、テレビドラマには苦手意識があったんですが、これは、順番を守って良かったなと思いました(笑)。

 
――最後に旅のお話を少し。ゴールデンウィークには高知に行かれたそうですが。

井浦:そうですね、家族で行きました。旅は、自分のライフワークだと思っています。

スケジュール帳を見て、「この期間はオフだから、どこかに行こう」とか、そういう感じの計画的な旅よりも、ふらっと立ち寄った先で、知らない文化や風習と出逢えれば、もうそれが旅だと思う。僕の場合、移動距離は、あまり関係ないんですよ。

 
――旅に目覚めたきっかけは?

井浦:父親が旅が好きで、どこにでも車で連れて行ってくれるような家でした。だから、「移動する」とか「出かける」ことへの免疫が、子供の頃からもうできていたんです。

10~20代は海外がメインでした。観るものは、その地域の伝統文化だったり、民族的な風習だったり。その国、その地域の古き良きものを訪ね歩くのが、僕の旅のやり方なんです。

30代になってからは、その興味が海外から日本に向いて。まだまだ行ってみたい場所はたくさんあります。

 

PROFILE

井浦新 Arata Iura
1974年生まれ。東京都出身。『ワンダフルライフ』(98年/是枝裕和監督)で映画初主演。以降、映画を中心にドラマ・ドキュメンタリー・ナレーションと幅広く活動。『かぞくのくに』(12年)で、第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞、師と仰ぐ若松孝二監督とタッグを組んだ『11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12年)では、日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。今作の柳川強監督が演出したNHKドラマ「最後の戦犯」(09年)がテレビドラマ初主演作。公開待機作に、『赤い雪RED SNOW』『菊とギロチン』『嵐電」『こはく』などがある。

 

INFORMATION

映画『返還交渉人 いつか、沖縄を取り戻す』

画像: ©NHK

©NHK

米軍基地の存続に困惑する沖縄の状況に泣き、そして寄り添った。沖縄返還に東西奔走した伝説の外交官・千葉一夫(井浦新)の活躍と苦悩を描く。千葉の闘いを影で支える妻・惠子に戸田菜穂。北米局長に佐野史郎、駐米大使に大杉漣、琉球政府行政首席に石橋蓮司ら、映画界の名優たちが脇を固める。ナレーションは仲代達矢。2018年6月30日、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。
http://www.henkan-movie.com/

 
Photo:Aya Kishimoto Styling:Kentaro Ueno(KEN OFFICE) Hair&Make-up:Atsushi Momiyama(BARBER BOYS) Interview&Text:Yoko Kikuchi

 

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