大島紬に代表される、奄美大島の伝統染色 “泥染め”。細かな粘土質の泥を用いて、淡い赤を帯びた灰色に染めていきます。ブックデザイナーの名久井直子さんの旅は、美しい色が生まれる瞬間に立ち会うものになりました。

泥染めの色は、奄美大島の色。それにふれて知ったのは、自然と共にある暮らしの一端……。

 

伝統染色の泥染めに触れる

黒は、ただ塗りつぶされて、何も存在しない色ではない。むしろ幾重にも色が重ねられた、その背景を想像させるような色。

大島紬の黒は、赤と灰色の中間のような、淡い泥染めの色を100回近く重ねることで生み出されるのだという。その黒は、どこか赤みを帯びていて、黒なのに赤い。どこまでも深い黒なのに、ほんのりと赤い。

奄美大島に行くならば、大島紬を生み出す泥染めをしてみたいと、ブックデザイナーの名久井直子さんは言った。自らの手を動かして染めることで、色が生まれる瞬間に立ち会いたいという。
 

画像: 〈PARADISE STORE〉で、染めるためのコットンのワンピースを仕入れる。

〈PARADISE STORE〉で、染めるためのコットンのワンピースを仕入れる。

空港から、泥染めを体験できる開かれた工房〈金井工芸〉に向かう途中、さらりとしたリネンの白いワンピースを買った。まっさらな白は、ドキドキするほど、色を吸い込みそうだった。

 

奄美大島が凝縮された、
淡く深い青と赤。

まるで誰かの家に訪れたように、狭い路地を通って〈金井工芸〉に到着する。車から降りた途端、「いい香りがしますね」と名久井さん。染料のためか、森から発せられる植物の香りとは別の、ほのかに発酵したような酸っぱさを感じる。洗濯物干しには、鉄が錆びたような、あるいは土そのもののような赤い色のシャツが何枚も干されている。
 

画像: 金井さんの染められた手。

金井さんの染められた手。

迎えてくれたのは、金井志人(ゆきひと)さん。大きな手が複雑な色に染まっているのが見える。何代目になるのですか? と尋ねると、その姿勢が垣間見える答えが返ってきた。

「まあ一応、私で二代目ということになるのですが、泥染めは、島全体で受け継いでいるものですから。たまたま水場があるのでうちで染め工場を営むことができているんです。ですので、誰が営んでいる、というわけではなく、島全体で続けているものだと思ってます」

その言葉の意味を、泥染め体験をしていくことで、少しずつ理解していくことになる。
 

車輪梅を煮出した染料の前で金井さんから話を伺う。車輪梅は、細いものでも最低10年は経過しているのだという。

工房内を見学しながら、金井さんに泥染めの工程を説明してもらう。奄美大島にはテーチ木と呼ばれる車輪梅(しゃりんばい)が生えていて、まずその煮汁で染める。そして、車輪梅に含まれるタンニン色素が工房のすぐ脇にある泥田の鉄分と触れることで化学反応し、色が深くなっていくのだという。車輪梅を煮出した液体は酸性なのだが、石灰水のアルカリ性を足すことで中性にして色を定着させるなど、まるで理科の実験のような説明に、名久井さんの目が爛々としてくる。
 

画像: トートバッグは、友人が描いたイラストが見える濃度に染めた。ほんのりと赤い。

トートバッグは、友人が描いたイラストが見える濃度に染めた。ほんのりと赤い。

まずはどんな色に染めるのか、金井さんにサンプルを見せてもらいながら、最終的な仕上がりをイメージする。道中で手に入れたワンピースは、爽やかなブルーの上にほんの少し錆が乗ったような、淡い色彩を目指して藍染めと泥染めを重ねる “藍泥染め” に。名久井さんが自宅から持ってきたトートバッグは、純粋な色を知るために、泥染めを一度だけ施すことにした。

「染めは、足すことはできても、引くことはできません。どれくらいの時間漬けるのか、何回漬けるのか、その塩梅が職人の仕事です」
 

画像: 休憩中。工房暮らしの猫と戯れる。

休憩中。工房暮らしの猫と戯れる。

金井さんの言葉に少し気を張るが、発酵した藍液の中にワンピースを漬けた瞬間に、名久井さんはなんとも言えない高揚感を覚えている様子。白い繊維が、あっという間に色を吸収していく。

染料の中で泳がせるようにゆらゆらとワンピースを揺らしてゆっくりと取り出すと、黄色と緑を足したようなエメラルドグリーンに染まっていた。よく絞ってからハンガーにかけて干す。空気に触れさせると、エメラルドグリーンは鮮やかな水色に変わった。

〈金井工芸〉では、本州とは違う琉球藍も使っているという。奄美大島が、鹿児島と沖縄の間に位置することを思い出す。
 

画像: 藍で一度染めたワンピースを、酢、きな粉を入れた定着液に漬ける。鮮やかなブルー。

藍で一度染めたワンピースを、酢、きな粉を入れた定着液に漬ける。鮮やかなブルー。

鮮やかな水色に変化したワンピースを、酸化を促すための酢と、繊維の深くにまで浸透させる効果があるというタンパク質を加えるためのきな粉を入れた定着液に漬ける。

「子供の頃に草木染めをして、次の日に色がくすんでしまっているのが悲しかったことを思い出しました(笑)。それで、色をキープするために、レモン汁に漬けたんです」

名久井さんの言葉に頷きながら、「そう。染めは、子供の頃の遊びみたいなもの。しかも、怒られずにずーっと実験を続けられる(笑)」と金井さん。どこかプリミティブな快感があるのは、子供の遊びに近いからか、本能的な欲求のためか。

布はもちろんのこと、皮革、骨など、自然素材であればおおよそのものは染まるという。金井さんは、山羊の頭骨を染める実験をしているそう。染めることは、ただただ、楽しい。

金井工芸
鹿児島県大島郡龍郷町戸口2205-1
☎0997-62-3428
 
SUNSHINE + CLOUD PARADISE STORE
鹿児島県奄美市笠利町用安1257-12
☎0997-63-2773

 
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かつては殿様料理と呼ばれた鶏飯。〈けいはん ひさ倉〉にて。/鹿児島県大島郡龍郷町屋入511-1 ☎0997-62-2988
  

〈島とうふ屋〉でとろりとした汲み上げ湯葉を。厚揚げも絶品。/鹿児島県大島郡龍郷町中勝1561-1 ☎0997-55-4411
  

懐石郷土料理〈一村(いっそん)〉のさねん蒸し。/鹿児島県奄美市名瀬柳町12-3 ☎0997-53-8333 

 

PROFILE

名久井直子 Naoko Nakui
広告代理店勤務を経て、ブックデザイナーに。穂村弘、川上未映子など多くの作家から厚い信頼を受ける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。

 
●情報は、2018年7月現在のものです。
Photo:Norio Kidera

 

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