大島紬に代表される、奄美大島の伝統染色 “泥染め”。細かな粘土質の泥を用いて、淡い赤を帯びた灰色に染めていきます。ブックデザイナーの名久井直子さんの旅は、美しい色が生まれる瞬間に立ち会うものになりました。

泥染めの色は、奄美大島の色。それにふれて知ったのは、自然と共にある暮らしの一端……。

 

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森の恵みの染料は、
土地の色を移すもの。

工房内には染められた糸がグラデーションとなって干されていた。イギリスから染色を学びに来ている職人も。

チップ状にした車輪梅を大きな釜で2日間かけて炊き上げ、3~5日間寝かせた染料は、まさしく錆びたような色をしていた。煮出された車輪梅のチップは次回の薪として使われる。炊かれた後の木灰は藍染めに用いられたり郷土菓子の灰汁巻きに使われたり。森からの恵みは余すことなく使われていく。
 

画像: 職人に交じって車輪梅の染料に漬け、揉み込んでいく。

職人に交じって車輪梅の染料に漬け、揉み込んでいく。

その染料の中で揉み込むようにして糸に色を吸わせていくと、水色のワンピースにピンクが加わり、紫のような色彩を帯びてくる。一番液と二番液、濃度の違う液体に順番に漬けて色みを調整していく。隣では職人さんが、果たして何回目になるのか、黒く染まった糸の束をまた染めていた。作業をしながら顔を上げると、大きく開かれた窓から奄美大島の深い森が見えた。
 

画像: 一部を区切った泥田に膝まで浸かり、染めていく。雨が降ると鉄分濃度が下がってしまう。

一部を区切った泥田に膝まで浸かり、染めていく。雨が降ると鉄分濃度が下がってしまう。

いよいよ屋外にある泥田へ向かう。底に沈む細かな粒子の粘土質は、古い地層のものであり、いわば太古の島からの恵みなのだという。泥の中の鉄分が足りなくなったら、蘇鉄の葉を入れて鉄分を補給することもあると金井さんが教えてくれた。鉄が蘇ると書いて、蘇鉄。
 

画像: とてもシルキーな細かい泥。肌触りも最高。

とてもシルキーな細かい泥。肌触りも最高。

泥田の中にはイモリが棲んでいて、時折、息をするために水面へと顔を出す。足を踏み入れ、その細かな泥を攪拌させて、薄い紫へと変化したワンピースを泥水の中へ入れる。あっという間に赤が黒い方向へと変色していくのがわかる。泥で濁るのではなく、鮮やかな灰色とでもいうべき色に変わっていく。

「藍から泥染めへと、何度か染料に漬けては出して、乾かすという工程を行いましたが、そのあらゆる段階の色が美しいんです。泥のついた状態でさえ、美しい」
 

泥染め体験をすることのできる〈金井工芸〉の水は、すべて地下水を汲み上げたもの。近くに川が流れる立地にある。美しい水を利用することができるのも、染色には、とても重要なこと。

名久井さんは、その色の豊かさ、曖昧さに目を見張っていた。工房内の地下から汲み上げた水で洗い、思い描いた色を確認する。藍染めの鮮やかな水色は、泥染めで錆びた赤みを帯びた。鮮やかさと錆び。矛盾するような言葉も、この色ならば内包してしまう奥行きがある。

「印刷の際に、特別にインクを混ぜてこの色を再現することはできるかもしれない。でも、これほど光の加減で繊細に変化する色は作れない。それに、 “色” に知恵が詰まったような感覚は、表現し得ないものですよね。すべてが自然のものから生み出されていることの気持ちよさというか。化学実験のように『ああ、なるほど』と思わせる、摂理に委ねる心地よさがあるのだと思います」

染め上げたものは、普段は川で水に晒して細かな粒子を落とすのだという。自然から取ってきたものならば、川を汚す心配もなく、また森へと還っていく。金井さんは言う。

「川があって、泥があって、森にテーチ木が生えている。そういう条件が揃っているからこそ、 “染めさせてもらっている” という感覚なんですよ。だから独り占めなんてしようもないし、共有していったほうが文化を残すことができるから。泥染めを広めることが、島の環境を守ることにつながるのだと思います」
 

藍染めを終えたところ。名久井さんが一度染めたワンピースと、二度藍染めをかけたシャツ。回数によって色みがまったく異なる。

大島紬は、時間の経過がなければ生まれない色なのだと金井さんは言う。幾重にも重ねて泥染めをしている時間だけでなく、乾かしている時間、あるいは完成した後、着込んでいくことによって変化する経過も含めた言葉なのかもしれない。黒は、深く奥行きがあり、時間を閉じ込めた色。
 

工房に干されていた、泥染めされたシャツ。同じ色に揃えて染めるのは非常に難しく、まさしく職人技。手前の物干しにかけられた紫色のワンピースとトートバッグが、名久井さんが染めたもの。

名久井さんが染め上げたワンピースは、爽やかでほんの少し赤を感じさせる水色に。トートバッグは独特の深みをたたえたピンクのような錆び色に。見事に奄美大島の色に染められていた。

金井工芸
鹿児島県大島郡龍郷町戸口2205-1
☎0997-62-3428

 
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The Local Favorites
Amami-Oshima Address

巨大なホームセンター〈ビッグⅡ〉で、お土産を購入。
 

画像: The Local Favorites Amami-Oshima Address

火傷、切り傷、水虫に〈ハブ油〉。/原ハブ屋 鹿児島県奄美市笠利町平字土浜1295-1☎0997-63-1826
 

甘いけれども後に残らない〈あたりや醤油〉も島の名産。/あたりや醤油店 鹿児島県奄美市名瀬伊津部町20-7 ☎0997-52-0478
 

空港からほど近い土盛(ともり)海岸の美しさ。
 

外観とは裏腹に、市場の中には、コーヒーショップなどの新しいテナントが増えている。

 

PROFILE

名久井直子 Naoko Nakui
広告代理店勤務を経て、ブックデザイナーに。穂村弘、川上未映子など多くの作家から厚い信頼を受ける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。

 
●情報は、2018年7月現在のものです。
Photo:Norio Kidera

 

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