大島紬に代表される、奄美大島の伝統染色 “泥染め”。細かな粘土質の泥を用いて、淡い赤を帯びた灰色に染めていきます。ブックデザイナーの名久井直子さんの旅は、美しい色が生まれる瞬間に立ち会うものになりました。

泥染めの色は、奄美大島の色。それにふれて知ったのは、自然と共にある暮らしの一端……。

 

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細部を知ることで
島全体へと思いを馳せる。

奄美大島に関する書籍が充実している古書店〈あまみ庵〉。

泥染めの色を表現するときに、「素材感」という単語を名久井さんは使った。どんなものから生まれた色で、どんな質感を湛えたものなのか。普段から、彼女は「素材感」を意識する機会が人よりも多いからかもしれない。

名瀬の町にある古書店に行ったときのこと。奄美群島の加計呂麻島を舞台にした小説で知られる島尾敏雄の古書を手に取ると、「この紙、もう作ってないんですよね」と教えてくれた。数十年前に出版された書籍の何の変哲もない紙が、今ではもう使われていない。

ほんのわずかな質感の違いに、名久井さんにはすぐに気づいてしまう。ディテールに注意深くなるほど、大きな時間の流れに敏感になるのかもしれない。
 

崖沿いに、見渡す限りの蘇鉄。目を見張る群生地。

蘇鉄の群生地で見つけたのは、赤い種だった。ふさふさと少し毛の生えた大ぶりな種が、雑草に埋もれるように地面にいくつも落ちている。昼に寄った鶏飯の店の前にあった無人の蘇鉄販売所には、種の状態から1年経った蘇鉄の幼木が売られていたが、10センチほどのとても小さなものだった。

群生地で見ていた、身長を超すほどの大きさになるまでにどれほどの時間がかかるのだろう。まして崖一面を覆い尽くすほどに繁殖するまでの時間を思う。赤い実には、蘇鉄の生命力が凝縮されているようで、固く重みがあった。
 

巨大なガジュマル。

続けて巨大なガジュマルを見に行ったときには、どうやって成長していったのかわからないほどに、枝から垂れ下がった気根と呼ばれる根が新たに幹となり、枝を伸ばし、繁茂していた。

樹齢400年とも言われる巨大なガジュマルを眺めて、島の豊かさを想像する。蘇鉄があり、ガジュマルがあり、車輪梅のある森。
 

画像: 曇天のため、透き通るような青い海の色にはならなかったが、それでもビーチはやはり美しく、貝殻や珊瑚、海外から漂着した何かの実を拾い歩いた。

曇天のため、透き通るような青い海の色にはならなかったが、それでもビーチはやはり美しく、貝殻や珊瑚、海外から漂着した何かの実を拾い歩いた。

都会を旅するときには仕事柄、思わずその土地らしい「紙くずを拾ってしまう」という名久井さん。特別なものを土産に買って帰るのではなく、ありふれたものの中から自分の美意識に照らしたものを見つけ出す。

奄美大島での名久井さんのもう一つの目的は、ビーチコーミングだった。島に流れ着くまでに磨かれて独特の色合いになったガラスを探したが見つからない。
 

ビーチコーミングで珊瑚を拾う名久井さん。思い出に連れて帰る。

あるのは宝貝や珊瑚ばかり。その中から、何かしら感じるものを掌中に収めていく。車輪梅を煮出した染料を中和するために用いられる石灰水は、かつては砂浜に打ち上げられた珊瑚を砕いて、消石灰にして用いていたのだという。

旅をするうちに、すべてが繋がっていくような感覚になる。夕飯には、味噌に蘇鉄を混ぜた料理も食べている。
 

画像: 金井さんに教えてもらった奄美の家庭料理の名店〈なつかしゃ家〉。郷土の野菜 “ハンダマ” でピンクに染まった炊き込みごはん。

金井さんに教えてもらった奄美の家庭料理の名店〈なつかしゃ家〉。郷土の野菜 “ハンダマ” でピンクに染まった炊き込みごはん。

「奄美は、衣食が一緒のような感覚がありますよね。色を定着させるためにお酢やきな粉を使ったり、反対に木灰を料理に用いたり。自然の中で見つけたものを、どう利用するかっていうことだから、本来、衣食住は分けて考えない。渾然とした行為なのかもしれないですね。それが島と共に生きることというか」
 

地元の野菜を扱うスーパーで “ハンダマ” を早速購入。

土産物屋で『いぎす』を使った寒天のようなものを試食したときのこと。いぎすってなんですか? と尋ねると「海亀が食べる海藻よ」と朗らかに返ってきた。

亀も人間も同じものを食べて暮らす島。それがどれほど豊かなことなのか、名久井さんももう知っている。夏の渡り鳥、アカショウビンの独特の鳴き声が聞こえ始めると、島は梅雨になるのだという。

金井工芸
鹿児島県大島郡龍郷町戸口2205-1
☎0997-62-3428
 
あまみ庵
鹿児島県奄美市名瀬港町10-1-2F
☎0997-54-1611
 
なつかしゃ家
鹿児島県奄美市名瀬柳町11-26
☎090-5292-6123

 

PROFILE

名久井直子 Naoko Nakui
広告代理店勤務を経て、ブックデザイナーに。穂村弘、川上未映子など多くの作家から厚い信頼を受ける。第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。

 
●情報は、2018年7月現在のものです。
Photo:Norio Kidera

 

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