安田顕さんが主演した映画『愛しのアイリーン』は、メガホンを取った吉田恵輔監督が「最愛の原作を最高の形で映画にできた」と自画自賛するほど、人間の持つ苛立ちや焦り、愛憎、哀しみと慈しみなど、様々な感情がぶつかり合い、それらが映像の中に膨大な熱量となって放出されている。

安田さんは、この作品について、「人間の見たくないところ、痛いところをえぐってえぐりまくる映画」と評しながら、アツく登場人物たちの愛しさを語り、ときに哲学の話まで飛び出した。

 

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念願だったアビーロードを渡った時
もの凄い喪失感に襲われました

――それにしても、この映画の登場人物は、ことごとく愚かでズルくて弱いですよね。それなのにみんな憎めない。

安田:上っ面のきれいさを全くと言っていいほど描いていないですからね(笑)。デフォルメしてるかもしれないけれど、“どんな人も、必ず内側には何か深いものを抱えてる” というのがこの映画のリアリティに繋がっているような気がします。

アイリーンにしても、岩男が最初に告白してフラれる愛子にしても、伊勢谷友介さん演じるヤクザものの塩崎にしても、表面上は淡々と日常を生きているけれど、実はそうじゃない。みんな、一筋縄では行かない悩みや苦しみを抱えているので、映画を観た人の中には、「もしかしたらこれは自分かもしれない」と思う人もいるかもしれない。

 
――ネタバレになってしまうので、詳しくは言えないのですが、終盤、岩男がアイリーンのことを心から愛していたんだな、ということがわかる象徴的なシーンがあります。個人的には、あのシーンがすごく泣けました。

安田:あれは、別に贖罪の意味ではなく、すごく動物的な怯えのようなものからとった行動じゃないかなと僕は思っています。自分の感情のはけ口を探していて、残ったのがあそこだった、と。映画ではカットされていましたが、アイリーンのその後、というのも撮っていたんです。台本にも、騒動の “後日談” が描かれていた。でも、監督が納得いかなかったのか、アイリーンのその後を想像させるような、余韻を残す形に変えていましたね。
 

画像1: ©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

――ぶっ飛んだ役を演じることで、多少のカタルシスはあったんでしょうか。

安田:僕よりも、(母親役の)木野(花)さんが「疲れる」ってずっとおっしゃってました。「ツルの思いをきっちり通さないといけないけれど、最後にどうなるか知っているから、一途な思いで演じるのがキツい」って……。僕も、岩男を演じることはキツかった。でも、早く終わってほしいという思いと同時に、終わってしまったら、どこにも岩男がいなくなる。岩男とずっと同化していたいという思いもあって。その2つの気持ちがせめぎあっていました。

 
――お話を伺っていると、やはりこれは世に出るべくして出た作品なんだと思います。この映画を観て救われる人がきっといるでしょうし。

安田:(拍手して)パチパチパチ! よかった〜。そう言ってもらうのが一番嬉しいです。

 
――今の上っ面の社会が見て見ぬ振りをしている部分を、ぐいぐいえぐり出していますからね。こういう生々しい現実をまっすぐ見つめて、自問自答できる強さを、今の日本人は取り戻さないと、と思います。

安田:マキタスポーツさんから聞いたんですが、現実を見て見ぬ振りをして、見たいものしか自分の周りに存在させないことを “環世界” っていうらしいです。たとえば、公衆電話って必要ないから、周りにないと思ってるけど、実際は結構ある。

でも、人間は、興味ないものは世界からオミットしてしまう。自分の中の思い込みや決めつけが、視野を狭めていることに、気づいていない人って多いですよね。ヒリヒリもズキズキもしますけど、自分の世界に生きて自分を甘やかしてばかりいると、大事なものを見失うってことに気づくきっかけに、この作品がなるといいんですが……。
 

画像: 念願だったアビーロードを渡った時 もの凄い喪失感に襲われました

――最後に、旅のお話を少し。安田さん、旅はなさいますか?

安田:プライベートでは、ほとんど行かないですね。休みがあると、一生休みになったらどうしようって焦っちゃうから。外国も、仕事以外では行かない。この間は「アナザースカイ」という番組で念願だったイギリスに行かせてもらいました。ビートルズが大好きなので、「一生に一度でいいからアビーロードを渡ってみたい!」ってプレゼンして(笑)。

 
――どうでした? 感無量でしたか?

安田:それが、行ってみたら案外普通の横断歩道で、交通量も多くて……。ちょっと拍子抜けな感じもしたんですが、横断歩道を渡った瞬間に、涙が溢れて止まらなくなった。そこで初めて、「ああ、俺にとってこの場所は、こんなにも大事なものだったんだな。少年時代の純粋な憧れを抱きつづけられる場所って、他にあるんだろうか?」って思ったら、ものすごい喪失感に襲われたんです。実際に、渡れたことはすごく嬉しかったけれど、渡ったあとの寂しさたるや(溜息)!

 
――映画では、フィリピンに行ってますね?

安田:撮影では、タンザって街にしか行ってないので、首都のマニラに行きたいです。フィリピンにだって、日本と同じで東京のような都会もあれば、僻地もあるはずなのに、この映画を見た日本人が、タンザという街だけを見てフィリピンはこうなんだと決めつけたら、申し訳ないなと思って。

映画の根本のテーマが、フィリピンの貧困層の問題にあるわけじゃないし、誤解を与えるのはよくないですから。ある意味、人間をすごく動物的に描いているし、テーマは普遍的なので、フィリピンの人たちがこの映画に対してどう思うかには、すごく興味があります。

 

PROFILE

安田顕 Ken Yasuda
1973年生まれ。北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。舞台、映画、ドラマなどを中心に全国的に幅広く活動中。ドラマは、「下町ロケット」(2015年)「重版出来!」(2016年)「噓の戦争」「小さな巨人」(ともに2017年)「正義のセ」(2018年)などに出演。映画は、北野武監督『龍三と七人の子分たち』、園子音監督『新宿スワン』、土井裕康監督『ビリギャル』(すべて2015年)、森義隆監督『聖の青春』(2016年)、福田雄一監督『銀魂』(2017年)、白石晃士監督『不能犯』、滝田洋二郎監督『北の桜守』(ともに2018年)など。本作は横浜聡子監督『俳優 亀岡拓次』 以来の主演作となる。2018年の公開予定映画に江口カン監督『ザ・ファブル』がある。また、2019年 4月スタートの連続テレビ小説「なつぞら」にも出演が決定している。

 

INFORMATION

映画『愛しのアイリーン』

画像2: ©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

一世一代の恋に玉砕し、家を飛び出した42歳の岩男(安田顕)は、コツコツ貯めた300万円をはたいてフィリピン嫁探しツアーに参加する。貧しい漁村に生まれたアイリーン(ナッツ・シトイ)を嫁にすると決め、日本に戻ると、父の源造は亡くなっていた。大事な1人息子がフィリピーナを嫁にもらったと聞いて激昂する母・ツル(木野花)。岩男とアイリーンは、夫婦の契りを交わすことが出来ぬまま、ツルは密かに別の女性を岩男の妻に迎えようとしていた。一方、外国人女性の人身売買を生業にする塩崎(伊勢谷友介)は、アイリーンを連れ去ろうとする……。2018年 9月14日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。http://irene-movie.jp/

 
Photo:Noriko Yamamoto Styling:Toshihiro Muratome Hair&Make-up:Tetsuya Nishioka(Leinwand) Inteview&Text:Yoko Kikuchi

 

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