琉球の風にたなびく芭蕉交布と、思わず触りたくなる丸みをもつパナリ焼。手仕事の目利きとして世界を旅する、中原慎一郎さんが訪ねたのは、沖縄・八重山諸島の西表島と石垣島。

古い物語に描かれたような景色の中で、アジアの大地と暮らしが生むプリミティブな美しさを見つけました。

 

命をつなぐ焼き物
幻の「パナリ焼」を探して

なんのてらいもない素朴な形が美しい。八重山諸島の新城島で、約200年前までつくられていた焼き物「パナリ焼」。粘土に貝殻を砕いたものを混ぜて焼いてある。骨壺や穀物の保存用に使われた。

「親父が焼き物好きで、僕が小さいとき、家にパナリ焼の壺があったんです。コロンと丸い底を触ったときのツブツブした感覚を今も覚えています。そのルーツを知りたいな」

パナリ、パナリ。口にするとちょっと気持ちいい。幻の焼き物と言われるこの土器と再会すべく八重山諸島へ出かけたのは、〈ランドスケーププロダクツ〉のファウンダー、中原慎一郎さん。

工芸好きやインテリアファンにはおなじみの目利きであり、ものづくりの現場を訪ねてアメリカ西海岸やメキシコへ出かけることの多い旅名人でもある。

日本最南西端の島々からなる八重山諸島のうち、今回降り立ったのは石垣島と西表島。ガジュマル、マングローブ、芭蕉の葉――亜熱帯の濃密な自然が迎える楽園を、フェリーで行き来する島旅だ。
 

画像: 西表島では道々で、散歩中の飼いヤギや野良ヤギに出合う。

西表島では道々で、散歩中の飼いヤギや野良ヤギに出合う。

石垣空港から西表島に渡り、さっそくレンタカーを南へ走らせる。「あ、野良ヤギ。いい顔してるなー」「空気がみっちりしてますね」と、島の景色を楽しみつつ、向かったのはパナリ焼の展示館。

パナリ焼とは、八重山諸島の新城島で、17世紀から19世紀中頃までつくられていた土器だ。2つの島で構成される新城島が「パナリ(離れ)」と呼ばれたことから、この名がついたという。
 

「ものづくりは手から手へ伝えないと途絶えてしまう。残念だけど」と嘉陽さん。それでも復元に挑戦し続ける。

「島の粘土に砕いた貝殻を混ぜて手びねりで成形し、野焼きでつくったといわれています。丸くて簡素な壺が多いから、穀物の保存や煮炊き、あとは骨壺に使われたんでしょうね。西表島など周りの島々にも伝わったけれど、現物はほとんど残っていないんです」と話すのは、〈ビームパリ窯〉を主宰する陶芸家の嘉陽恵美子さん。
 

昔の姿のまま残っているものが少ないパナリ焼。水甕や骨壺として八重山各地で使われていた。〈ビームパリ窯〉の展示館には3つのパナリ焼が飾られている。色濃い緑を切り取る窓が絵のよう。

23年前、パナリ焼に魅せられて大阪から移住して以来、わずかな文献や陶片を頼りに研究を重ね、パナリ焼の復元にトライし続けている。中原さんが「これは島の唄ですか?」と、壁に貼られた紙を指すと、きれいな声で詠みあげてくれた。

「土鍋ば はいひり(土鍋を買ってくれ)/あかまみとぅん かひひり(小豆と換えてくれ)――新城島の周囲の黒島や竹富島に残る古謡です。新城島では食べものがあまり採れなくて、土鍋や水甕をつくっては、豆と換えてくれ、米と換えてくれって、周りの島へ渡っていたようです」
 

「丸っこいフォルムに惹かれます。あらがえない美しさがあるよね」と中原さん。

そうか、生きるための手段だったんですね……と、しばし古いパナリ焼をなでたり眺めたりしていた中原さんが、ふとiPhoneを出して嘉陽さんに画面を差し出した。

「この間メキシコで見てきた土器なんです。パナリと似てません?」「ほんとだ。ああ、いい赤色。肌がツルツルなのは磨かれているから?」

メキシコの土器に興味津々の嘉陽さんに、「向こうではこれでトルティーヤを焼いていましたね。そういえばパナリの土鍋では何をつくっていたんですか?」と中原さん。
 

昔のつくり方を研究し、復元を試みている嘉陽恵美子さんが焼いたもの。白いツブツブは砕いて土に混ぜた貝殻。

「穀物かな。カタツムリも食べていました。パナリ焼の肌のツブツブは “カタツムリの殻を混ぜたのでは” とも言われているんですよ。唄にあるように、パナリ焼は作物や穀物の不足を補い、命をつなぐものだった。私はその切実な美しさや逞しさを復元したいのだけど、この肌みたいに焼きあげる決定的な方法は、20年以上続けてもまだ見つからないです」

パナリ焼展示館/ビームパリ窯
沖縄県八重山郡竹富町上原397-4
☎0980-85-6423(ビームパリ窯)

 

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PROFILE

中原慎一郎 Shinichiro Nakahara
1971年鹿児島県生まれ。1940~60年代のモダンデザインや民藝をルーツとしたものづくりを提案する「ランドスケーププロダクツ」を立ち上げる。東京のショップ〈プレイマウンテン〉のほか、サンフランシスコの店舗も好調。

 
●情報は、2018年8月現在のものです。
Photo:Norio Kidera Text:Masae Wako

 

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