旅好きセレクターによる、旅へと誘う本をご紹介! 今回は、エッセイストの平松洋子さんに選書してもらいました。
 

本は、その土地の地図になる。

旅に出るときは、行き当たりばったりの時間を大事にしている。知らない路地を適当にうろついたり、地元の喫茶店で新聞を読んだり、通りすがりの居酒屋の暖簾をくぐったりするうち、土地と馴染む実感が湧いてくる。旅先では、何でもない時間のほうが、むしろ自分が深く開いてゆく感覚がある。

土地について書かれた本を読むのが好きだ。言葉を通じて匂いや空気が立ち上がってきて、自分なりの地図が構築されてゆく。

画像1: 本は、その土地の地図になる。

築地
テオドル・べスター 著/木楽舎(2007年)
17年以上に及ぶ築地研究をまとめた大著。経済、流通、食文化、消費、制度、社会、伝統、歴史など築地魚市場の全貌が明らかに。

『築地』は、人類学および日本文化研究者、ハーバード大学教授のテオドル・ベスターによる一冊。築地市場が果たしてきた機能を詳細に論じ、その意味と価値を解き明かす。豊洲移転を目前に控え、日本人は何を手放し、失おうとしているのか。その答えがここにある。
 

画像2: 本は、その土地の地図になる。

ルポ川崎
磯部涼 著/サイゾー(2017年)
神奈川県川崎区を舞台にしたノンフィクション。川崎のラッパーやヤクザ、ドラッグ、売春、人種差別問題などを赤裸々に綴る。

いっぽう、京浜工業地帯の要として発展してきた神奈川県・川崎の深層に分け入るのが『ルポ川崎』。ラッパー、在日コリアン、歌手、活動家などを中心に取材、多文化地区のリアリティに迫る。貧困、差別、文化の軋轢……土地が抱える痛みを容赦なく描き出し、ひりつくような読みごたえだ。
 

画像3: 本は、その土地の地図になる。

あんこの本
姜 尚美 著/文春文庫(2018年)
あんこが苦手だった著者が全国36軒を訪ねたあんこを知る旅。小豆の旨さが詰まった菓子とそれを支える職人の物語をまとめた1冊。

あんこを手がかりに、京都や大阪を始め土地の深層に分け入るのは『あんこの本』。各地各人が手がけるあんこを語りながら、日本の食文化と土地、人間との関わりに息が吹き込まれ、生き物のように動き出す。

いますぐ築地に、川崎に、あんこを商う店々に行きたくなる3冊、ぜひ。

 

PROFILE

平松洋子 Yoko Hiramatsu
エッセイスト。食文化と暮らし、文芸と作家をテーマに幅広く執筆している。著書に『日本のすごい味』(新潮社)など他多数。

 
●情報は、2018年9月現在のものです。
Photo:Toru Oshima

 

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